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このダンジョンに銘を付けるなら?  作者: ふれんどりーふぁいやー
第二章 名を捨てて実を取る
31/53

第二十六話 このダンジョンが死に瀕した少女を救えるなら?

休みに入ったので一時投稿スピード上げます、休み中に五話くらいは上げる予定です。でも今年中に二章終わらせるのは無理そう、だってあと5・6話かかりそうなんですもん……orz

 



 前回のあらすじ、フィアが余計なモノ引きつれて帰ってきた。いや本当どうするのコレ?完全に積んでるじゃないですか、誰かぁ!!助けてください!!!





「どうか警戒を解いてください、危害を加えるつもりはありません」





 目の前の男が、嘘臭い笑みを浮かべながらそう呟いた。


 おい、今のセリフ、後ろ振り向いてからもう一度言ってみろ。鎧や武器で完全武装した大きいお兄さん達(平均身長2メートル)が殺気立ってるから、明らかに危害を加えるつもり満々だから。





「我々が本気なら、少なくとも20万の兵力でこの場を押し潰す事が出来ます。ですが今回はそれをしなかった、それがこちらの誠意ですよ、御理解頂けませんか?」





 ……何を言ってんだコイツ?





「いや、それは無いでしょう。今回フィアの尾行をしてここまできたんだろうし、しっかりとしか確信も無く大軍勢動かせる訳無い、仮に動かすとしても大軍勢は開けた場所じゃないと意味を無さない。それ以前に尾行でウン万も人員使う必要無いでしょうが、30人でも多過ぎるって」





 寧ろ何で見つからなかったのかが不思議でならん、フィアって案外鈍いのか?それとも後ろの連中は常人には気付かれないように動けるとか、そんなビックリ集団だとでも言うのだろうか。……精鋭部隊とかマジ勘弁して欲しいんだが。





「……成程、大人数に威圧された中で即答するとは、意外と頭が働くようですね。良かった、これなら有意義な交渉が出来そうだ」





 あ、彼らの態度はわざとっすか。というかサラッと試しました発言するとか、このお兄さんいい性格してるなぁ。


 しかし交渉ねぇ、今まで聞いた話から思い当たらなくは無いけど、確証がないから滅多な事は言えないな。でもいきなり襲ってくるかとも思ってたのに意外だな、……もしかして、実力行使に出ないのは私の力を誤認しているからなのかな?


 もしそうなら、付けいる隙があるかもしれない。





「突然の来訪者に私が望む事は帰れ以外無いですがね、いったい何をお望みで?」


「それは我々との交渉を承認したと、そう受け取ってもかまいませんね?」


「……それを決める為に交渉内容を窺っているんですが?言えないのなら早急にお帰り頂きたい」


「それは困りますね、それならば我々も交渉を諦めて、違う道を選ぶしか無くなってしまうのですよ。双方の被害を考えると、出来るだけ避けて通りたい道なのですが……」





 あえて強気で接したんですが、後ろの約30名が一斉に武器を構えてきました。……兵士さん、めっちゃ怖い。


 マズイ、私も何か戦力を見せないと、本当は弱いって事がばれる。でも私が出来る事なんで、ゲーム機でなんか呼び出すくらいしかない。でも何を出す?危険物は私にも危険が及ぶし、下手な物呼んでも場を白けさせる程度にしか役に立たん。


 呼び出すならせめて、何か意味のあるものを……ッ! 





「……“フォレストマン・スツール”を30、召喚!」





 懐からゲーム機を取り出し、目当ての物を来訪者達の足元に召喚する。





≪ フォレストマン・スツール (自然/植物) コスト:5  ≫

 ・詳細:森の生物が腰掛ける程に巨大な茸、食用には向かない。

 ・効力:なし

 ・生産:エネルギー還元 1 





「!!……これは」


「ただの大きなキノコですよ、毒性もありません。私は友人の荷物を持って上がります、皆さんお疲れでしょうからそれに座ってお待ちください。リベラ、フィア、行くよ」





 そう言って、私はフィアの荷物の一部を持ち、友人二人を引き連れ根の階段を昇って行く。下の彼らは特に声を上げる事は無く、沈黙しながら此方の様子を窺っていた。









 …………はぁ~、どうにか誤魔化せたかな?いやぁ心臓に悪いわぁ、ただのキノコでも何とかなるもんだな。因みにあのキノコ、リベラが椅子やテーブルが欲しいと言いだした結果、妖精さんと相談して見付けた家具に使えそうな植物の一つだ。こんな所で役に立つとは、人生解らない物である。


 これで相手は私が妙な力を持っている事が解って警戒するだろうし、私の行動は余裕が合っての事だと誤認している筈だ、いや良かった良かった。


 ……まあ所詮その場凌ぎだ、しかも話の流れで交渉を承諾するしか無くなってしまったんですけどね。





 自分の住処に帰ってきて、一息ついた所でフィアから声が掛った。





「ウァリィ、アンタどうする気なの!?本気で交渉するつもり!!?」


「……んなもん考えてる訳無いでしょ、ただの時間稼ぎだよ。ただ相手は私を兵士30人位必要な相手だと思ってるみたいだし、だからそれを利用して強気で対応する、でもって相手に諦めて貰えるように話を持っていくしかない」





 まぁ勝率は低そうだけど、でもそれ以外手段が思い付かないんだよなぁ。


 ぶっちゃけ今も心臓が弾け飛びそうな程動いてるんですけど、もう二度と下に降りたくないんですけど。でも放置したらそれはそれで問題だ、下は猛獣が居ないのは既にばれただろうし、最悪居着かれてしまうかも知れないのだ。





「……ふうむ、アフィリシア、あの宗教国家か。それも政務官と言ったな、ならば奴が聖教国の実質的な支配者か、思ったより優男だな」





 後ろのリベラからぽつりと呟いた、なんか不安を掻き立てられる様な内容だな。





「……しゅ、宗教?」


「む、知らぬのか?アフィリシア聖教国は二人の神を信仰する国だ、元々はエウラシア王連国が排斥した信仰者が南へ流れた末に築き上げた国だと聞いている、まぁ今は割と友好な関係らしいがな」





 うわぁ、更に不安が高まってしまった。信仰心を否定する気は無いが、宗教を基盤に置いた国ってロクな事しないという偏見がある。神様の為に特攻仕掛けるとか、神様を信用しない人は人間扱いしないとか、あぁ恐ろしや。





「……あれ、でもフィアって確かどこぞの研究者だよね?宗教国家なのに研究者?」





 なんかイメージが繋がらない、神秘的な事を重視している国が科学的な事するのが何となく違和感がある。いや、まあ私の勝手な思い込みなんで、実際は有り得る事なのかもしれないですけどね。





「……アフィリシアの神々は医学と化学を司ってるのよ、だから他国より研究施設は多いし医療技術も発達しているわ。そうでも無かったらとっくに出て行ってるわよ、こんな国」


「うむ、アフィリシアの医学は他国でも著名だ。神の名の下に医療技術を施し伝えるその姿は正に神使、彼らに感化され医術師を志す者は多い、また多くの技術者はアフィリシアの双神いずれかの信者であることがほとんどだな」





 なるほど、そんな経緯があってフィアがその国に所属してるのか。しかし医学の神か、わたしの世界でも医学界のシンボルに神様の杖だか蛇だかを掲げてるらしいし、まあ有り得ない話では無いのかも。


 でも思ってたよりマトモそうな国だな、聞く限りではかなり良心的な行動をしている、とても幼い子供に現を抜かす様な国には思えないんだが。





「……因みに、その双神の一人、医学神の方が幼い少女の姿をしているそうよ」





 …………ああぁ、そう言う事かぁ。タメ息が混じったフィアの言葉で大体理解したわぁ。





「それじゃあ姫様が人気を博したのって……」


「何せ永遠の幼き姫だからね、瞬時に神の再来だと祀り上げられたわ。姫様の信者が80年絶えなかったのは神の存在が大きいでしょうね」





 頭の中の偶像アイドルが目の前に出てきちゃって、皆さん盛大にハッチャケちゃったのね。確かにずっと若いままで居座られた、神様を彷彿してもしかたないのかな?


 でもそこまで大切な姫様だ、やはり彼らの望みはそういう事なんだろうな。





 さてと、二人からある程度あちらさんの情報が聞けたし、フィアが持ってきた荷物も置いたし、不信感持たれる前に大人しく下に戻りますか。……本当は二度と戻りたくないけど、二度と戻りたくないけど!









 私達が下に戻った時、彼らは既にいなくなっていた……なんて事は勿論無く、皆さん行儀よく待っててくれてました。……ただキノコには政務官しか座って無いけどね、この人本当に太いわぁ。





「お待たせしました、それで?わたしに用事があるんでしょう、どの様な御用件で?」




 出来るだけ余裕そうに偽りながら話さなければならないな、この場に居る全員で総攻撃されれば私は終わりだ。なので相手に私にはこの状況でも動揺して無い、それほどの実力差を持っている、または何か隠し持っていると思わせていないと危険でしょうがない。





「そうですねぇ、ではまず、あなたの罪を償ってください」


「……………………はぁ?」





 突然何を言ってるんだこの人??





「あなたが我々に対して何を行っているのか、理解していますか?このダンジョンと共に現れた魔壊樹、この樹の所為で滅んでしまった国の事を知らないのですか?ある研究者が魔界から一本の枝を持ちかえり、それを地に植えたその日に町が滅んだ、そして一日で国が滅ぶまでに至ったのですよ?それを知った我が国の民は今も恐怖に怯えているのですよ?あなたがこの樹と共に現れた事がどれ程我が国を苦しめているのか、真に理解しているのですか?」


「な、何を言っているのですか政務!?それに魔壊樹に付いての情報は先「あなたは黙りなさい」ッ!」





 フィアが前に出て異議を唱えてくれたが、完全に言い切る前に遮られる。彼の制止と共に護衛の兵士たちが武器を此方に構える、フィアは続きを言えずそのまま言葉をおさめた。


 そして政務官の要望は続く、その口ぶりは私が悪の権化だとでも言う程に容赦の無いものだった。





「被害を受けたのは国の兵士だけではありません、勇気ある国民達がそれを阻止せんが為に百に届く程の被害が出てしまっているのですよ?その中には後ろに控えている彼らの友人や家族も含まれています、分かりましたか?それがあなたの罪です。被害を受けた者たちの為にも、またその知人たちの為にも、我が国の為に償いをしてください、それを行ってようやく我々は対等です」





 その威圧的な言葉を受けた私は……





「……それ、本気で言ってます?だとしたら、無いわぁ」





 思わず呆れた声を上げた。





「キサマ!!此方が下手に出ていればいい気になりおって!!本来キサマなんぞと交渉する事も無いのだ!!迷宮の主が何するものぞ!!我らアフィリシア聖騎士団が貴様を死の国へ叩き落してくれようぞ!!!」


「そうだ!その首、魔壊樹と共に切り倒してくれる!!!」


「「「「「ウオォォォォォ!!!!」」」」」





 今まで黙っていた兵士さん達が一斉に声を荒げる、この話題について少なくとも彼らは本気だったって事か、キノコに座ったまま静観している政務はどうか知らないけど。


 このまま黙っていると襲いかかってきそうだな、えっと何から言えばいいのか……





「……魔壊樹がなんか危険だってのは分かりましたけど、この樹が立ったここ一週間で周囲に影響は?一夜にして国が滅ぶ程の影響ならもっと周囲に変化が起こってるでしょ?それに植物に詳しい私の友達が言うにはこの樹は今周囲に影響を与える力は持ってないらしいですよ、まあ私は専門家じゃないですし確証は無いですが、そちらの国は研究が盛んなんでしょう?実質私より詳しいのでは?」





 これほどまでに馬鹿デカイ樹だ、遠目からでも状態は分かる筈だ。私だって周囲の状況の確認ぐらいはしている、私が見た限りでは周囲に変化は見られないし、なにより彼らが現状の魔壊樹による被害を伝えていない事からも特に影響を与えていないのは解る。


 それでも急いで魔壊樹を駆除するべきだとしても、それは非力な国民が行う事ではない。ここは力を持った国の者が対処するべき所だ、たとえ樹を直接どうにか出来なくてもやれる事は沢山ある、調べるなり逃げるなり外部から協力を仰ぐ事だって出来るだろう。





「というか、そもそもダンジョンで人が死んだら私の責任になるのが可笑しいでしょう。私はこの辺りは危険区だって聞いてますけど、危険な区域に自分から入り込んどいて、命を保障してくださいってどういう事です?わたしはここに飛ばされてきただけで、ここを管理している訳でもないんですけど?」





 私は半ば強制的にここに縛られているだけだ、寧ろ私は被害者だろう。まあその辺は相手が知る由も無いので仕方がない、だがそれ以前に此処に数百人が入ってきているのが可笑しいのだ。





「……仮にこのダンジョンが私の所有地だったとしましょう、それでも私からしてみれば貴方達は勝手に入って来た不法侵入者だし、同じく勝手に入り込んでいる猛獣に勝手に襲われてるだけだ。寧ろ何で国民が危険な場所に易々と入れるんだよ、その辺は国が抑えて管理する事だろ、それを怠って置いて人の所為とか無いわぁ」





 自分で口にして改めて相手のいい加減さを理解する、一体どういう国家体制築いてるんだ。何だかイライラしてきた、口調も途中から素に戻ってる気がする。





「……というかお願いってそれ?てっきり姫様を助けてくださいとか言われると思ってたんですけど、そんな下らない事言いに来たんならお引き取り願いたいんですけどねぇ。アンタらほんと何しにここに来たの?不幸自慢でも言いに来たのか、つか自分の国の不甲斐無さまで私の所為にするな!」





 私の言葉を最後に、周囲がシンと静まりかえった。


 ……言いたい事を言って、ふと正気に戻る、私は何を言っているんだ?


 ヤバイヤバイヤバイ!!絶対皆さん怒り狂ってるよ!!腹立たしさに任せて盛大に喧嘩を売ってしまった!!怒られる、つか殺される!!?イヤァァァ!!ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ!!!



 私は自分の失態に焦る、だが相手の見せた反応は、私の予想外の物だった。


 政務は目を見開いて私を凝視する、後ろに控えている兵士たちが騒つく、招かれざる客達は酷くうろたえている様だ。そしてその動揺が続く中、政務官がキノコのイスから立ち上がった。





「えっと?なに?」


「あなたなら、姫様を救えると、そうおっしゃるのですか?」





 ここで先程フィア達と話していた事を思い出す、アフィリシアは医療が発達している国だ、そんな国の医療技術をもってしても治せない、それが彼らの姫が罹っている病だ。そんなもの、幾ら迷宮の遺産を用いたとしても治せるのだろうか。





「い、いや容体を見てないし何とも……」


「……でも、可能性は有る、そう言いたいのですか?」





 私の言葉に対して必要に食いついてくる、やはり彼らにとって姫様は重要な存在の様だ。


 これはチャンスかもしれない、この話題なら相手は食いつくみたいだし、診察する旨を伝えれば一端帰ってくれる、そして他の幹部達と相談するとか姫様の容体を見て考えるとかするだろう。少なくともこの場は凌げるのだ、彼らがお引き取りしている間に新たな対応策を考えられる、勝ち目は薄い現状よりは大分マシだろう。





「……可能性だけなら、ね。此方に今後害を加えないと言うなら、診てあげても良いですが?まぁ姫様がこの場にいなければ話になりませんよね、なので今日はお引き取り……」


「わかりました、近衛長!姫様を此方に!」





 ……って、連れてきたんかい姫様!不治の病って言う位だから絶対安静じゃないの!?


 そんな私の心情を余所に奥の方から何かが近付いてきた、なにやら四人の大男たちに抱え上げられた小さな家の様な物が現れる、あれは…神輿?大名駕籠?さすがは神と崇められているだけはあるな、扱いが違う。


 ……こうなったらやるしかない、今私が出来るのはゲーム機の力で姫様をどうにかする事だけだろう。もはや私に出来るのは遺産コイツの力を信じる事だけだ。





「この中に姫様はいらっしゃいます、ですがあなたに姫様を触らせる訳には参りません、容体の確認は視診のみでお願いいたします。あと姫様はただ今眠りに付いておられます、ですので騒ぎ立てる様な事もお控え願います」





 結構無茶な事を言われているが、まぁ私には関係ないので直ぐに肯いた。それを確認した政務が担ぎ上げられていた物に近づく、そしてそれに取り付けてあった小さな扉に手を掛け、それを開いた。





「“ステータス”!」




 開かれ、中身が露わになった瞬間にゲーム機を起動させる、そして姫様に付いての詳細な情報が露わになった。





「…………え?」





 それを見て私は、一瞬で硬直した。





「?どうしました、まさか何も解らない等と……」


「え、いや、そうじゃなくて」





 これ、仮に治せるとしても……





≪ シャインスラット・クリス・クラスティ・アフィリシア(人形/心霊)≫

 ・特性:歪なる命の花嫁人形クリスナーガ(LV.EX)

 ・能力:回復魔術(LV.9)/浄化魔術(LV.9)/防護魔術(LV.9)

 ・状態:死亡(■■■■)/愛心霊の加護(誘惑LV.7)/偽人形魔導師の呪(肉体不滅)

 ・奪取:エネルギー還元 123000 





 治療して良いモノなのか!?





ついに出てきた噂の姫様、多々ある突っ込み所については次の話で語ります。次回、ついにアレが出てきます。

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