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このダンジョンに銘を付けるなら?  作者: ふれんどりーふぁいやー
第二章 名を捨てて実を取る
28/53

・外話・   面倒臭い女調査員の心情より

本編前に番外編挿みます、今回の主役はフィアさんです。

だってこれ以上出番無いと忘れ去られそうなんだもの(笑)

 



「では、此方で暫くお待ちください」


「…………」





 そう言うと城の兵士は一礼し、部屋から出て行った。それを確認した後私は周囲を確認する、全体的に広々としたそこは待合室と言うよりは談話室のようなゆったりとした雰囲気があった。ある程度見渡した後、私は部屋の中央付近にあったソファーに近寄り、再び声がかかるのをそこで待つことにした。




 あのダンジョンから脱出した後、魔術が使えるようになったのを確認してから移動術を発動、無事アフィリシア聖教国へと戻る事が出来た。そしてその日のうちに報告を済ませ休みを取っていたんだけど、内容に問題があったのか王国に直接召集されたのだ。


 今回の報告書はウァリィについて隠す為に所々情報を暈した物だった、だから今回の召集は暈した部分を詳しく聞きたいが故に行われたものだと思う。全く、余計な気遣いなんてするんじゃ無かった。


 だけど大変遺憾だがあのバカには恩がある、だからこそ今回の報告では全てを伝えず、出現した魔物についてだけを伝える事にした。次の攻略までの時間を稼げれば御の字、欲を言えば攻略自体を諦めてくれればよいのだけどそう上手くは行かないでしょうね。


 それにしてもあのバカは常識が無さ過ぎる、誰かが色々と教えておかないといずれ自爆するでしょう。その結果此方にも迷惑がかかる可能性は非常に高い、そんなことになると私も困る、仕方ないから暫く面倒を見てやらなくては。





「貴女も召集されたのですか?」





 突然、私の考えを遮る様に声がかかった。……そういえば、部屋に入った時に人影があった様な気がする、ふと声がする方を向くと二十代後半くらいの男性が椅子に腰かけていた。


 私も、と言う事はコイツも情報を直接伝える為に集められたのか、まあ確かに私一人だけの為に時間を割くのは効率が悪いか。





「いやぁ、参りましたね。私はただ上司の命令に従って迷宮の情報を伝えに来ただけなのに、伝えた情報が大変興味深かった様でして実際に話を聞いてみたいとか、私は仲間と合同で調査に当たったので全て私が見た事と言う訳ではないのですがねぇ」





 ……うるさい、聞いても無い事をベラベラと喋る男だ、私はアンタに聞きたい事なんて何も無い。目の前の軽口の男は無言で睨みつける私を無視して話を続ける、一体何なんだろうかコイツは。私がいた先発の強行軍にはいなかったと思うけど、もしかしてコイツ独自で調査隊を組んでたとか言うのだろうか。





「いやしかし今回の迷宮には本当に驚かされました、なにせ「お待たせいたしました、ご案内いたします」…………」





 兵士よくやった、全く興味のない長話を聞かされるとか拷問にも等しき苦行だ。何か言いたそうな男を無視して現れた兵士の元に近づく、それを確認した兵士は誘導の為にゆっくりと廊下を歩き始めた。さっさと話を終わらせて返りたい……。




 待合室から暫く歩くと、私達は大きめの個室に案内された。その部屋は様々な資料棚に囲まれており、その中心には書類の詰まれた書机座っている壮年男性の姿があった。





「ようこそ、お初にお目に掛かります、私はブルリック・イルトリート、この国の政務を任されているものです」





 そこに居たのは王国政務官、いわば国のナンバー2で現在御病気で伏せている姫様の換わりに国の政治を任されている聖教国最大の重鎮だ。……想像以上に大物が出てきたわね。



 彼は国全体の政治指揮を一手に引き受ける有能な人物なんだけど、私は底の見えない不気味な人物だと評価している。なぜなら他の官職者が黒い噂が多いのに対し、この政務には全くその類の噂を聞かないのだ。


 そもそも街に流れている官職達の黒い噂は、互いに嫌がらせとして上げ足の取り合いや汚職の暴露合戦をした結果生まれた、いわば自業自得の産物なのだ。そんな政治をする者達にとって災厄の環境で悪い噂が出てこない、これは裏の無い善良な人物だと言う意味ではない、下手に噂を広げたら何をされるか分かった物ではないという他の官職が行動を自粛している結果に他ならない。


 恐らく探そうとすれば幾らでもドス黒い話が出て来る筈、ただそれをすればこの政務が何か仕掛けて来るのでは、そう思うと誰も探りを入れる気は起きないのだろう。その手の話を知っているとしたら、彼に近い地位に居る官職達か一部の裏稼業の連中くらいだろう、一般にはとは縁遠い者たちばかりだ。


 などと私が警戒している中、意外と柔らかい表情をしている政務が本題を話し始めた。





「先日頂いた報告書には目を通しました、しかし今後の為にもより詳しい内容を聞いておきたいのです。言い回しや言葉は気にせずに、あなた方が見た全てを答えるようにお願いします」





 ……やはり、内容を暈した事に気が付かれた?だけどもしそうだったとしても問題は無い。そうなった時の対策は既に出来ている、此処に来るまでに思いつく限りの言い訳を考えてきた私には抜かりは無い!









 …………そして十数分が経過する…………









「……成程バウンディング・ベアですか、山林の魔獣が降りてきていると言うのは貴重な情報でした、そして迷宮の魔物は全て外部から入り込んでいる物の様ですね。それにスライトさんの情報通りならあの巨大な樹は魔壊樹で間違いないでしょうね、あそこで魔術が使えない事が分かったのは大きいですよ」


「ありがとうございます、何せアレは魔壊樹ですから早急に対処せねば危険ですしね、分かった時は急いで報告しなければと大慌てしましたよ」





 と、このような具合に私の目論見は完全に潰されましたとさ。


 ……不味い、まさか私の他に魔壊樹の事に気付いた奴がこんなに早く出て来るとは、この樹の存在が知られれば国としても早急に動かざるを得なくなる、だからあえて伝えなかったのに。


 おのれコイツの所為でせっかくの計画が台無しじゃないの、これじゃあ次の攻略の際には確実に対策を取られる。このままでは、あのバカが、死んでしまうかもしれない。……それはなんか、ヤダ。





「…………ブランディッシュさん、先程から何やら不安げな表情をしていますが大丈夫ですか?……もしかして貴女、迷宮が攻略される事を望んでいないのですか」





 そんな不安げな私の表情を察してか政務から声がかかった、しかも悪い方にとらえられている、それに加え私の心情をズバリ的中させているのだから性質が悪い。いかんいかん、今は目の前の事に集中しなければ。





「……いえ、ただ未だ全貌が解っていない場所への進軍ですから、どれ程の被害が出るかを考えると少し不安にはなります」


「確かに多くの犠牲は払うでしょう、ですが姫様の病は不治、現状治る見込みがないものです。それを治す可能性があるとすれば迷宮以外には無い、ですので仕方がないのです、数万程度の命で新たな情報が得られるのなら易いものですよ」


「……なんですって?」





 …………今、この男は何を言った?





「どうしましたフィア・ブランディッシュ、貴女は姫様一人と国民全てのどちらの命が重いか分かっているでしょう?決まっているそれは姫様です。姫様の様な方は100年に、いや1000年に一度出てくるかどうか、仮に出てきたとしても見付けられるかどうかすら危ぶまれるのですよ?そんな存在が目の前に、それも王族として生まれてきたのです、我々は何としてでも姫様を御救いしなければならないのです、それがこの国の総意です」





 ……うわぁマズイ、この男間違いなく姫様の信仰者、それもかなり重度の狂信者だ。官職達は比較的信仰心が薄いと思っていたんだけど、コイツはその中でも例外と言う事なんだろうか。しかも発言から察するに、姫様の名を出せばどの程度の民が動くか、分かった上で行動している。


 そしてなりより問題なのがコイツの思想だ、コイツは姫様以外の命を消耗品の様に考えている、最初から私達が死ぬ事を如何とも思っていないのだ。今回の調査だってそうだ、もし失敗しても次がある程度の気楽さで送り出し、新たに情報が入るまでずっと捨て駒を送り出すつもりだったに違いない。


 ……今までこんな男が私達の生活を支えていたのか、そう思うとゾッとする。





「私は国民達もそれを理解しているものと思っています、姫様は自分たちとは違い換えの利かない存在だとね。だからこそ先行部隊の方々は志願して来られたのだとそう思っていました、だからあなたも同じ気持ちだと思っていたのですが、表情を見るに違うようですね。なるほど、つまり、貴女は姫様の命など如何でも良い、と?」





 そういった政務の眼は今にも殺せと命じかねない程殺気立っている、迷宮の攻略に不安を覚えただけでこの対応、まるで命を掛けられなければ人では無いとでも言うかのような眼だった。


 冗談じゃない、こんな事だけで殺されたらまらない!





「……そうは言っていません、ただ愛する国民を失う事は姫様も望んでいないのでは?」


「無論です、姫様はお優しい方ですから。ですが未だ幼い姫様にはこの話は難しいでしょう、ですのでこの様な話は私が全て引き受けるようにしています。国民が悲痛な声を上げている等の話をして、姫様を惑わす輩は後を絶ちませんからね、もしやあなたもその類なんですか?」





 ……だめだ、全く話が通じない。このままでは私は異分子として抹殺されかねない、だか政務に掛かれば私はどんな発言をしても反逆者として扱われてしまうだろう。全く攻略の糸口がつかめない、下手な発言は身を滅ぼすだけ、今の私には沈黙を保つことしかできなかった。





「……政務、一言だけ言葉を贈らせて頂いてもよろしいですか?」





 そんなこう着状態の中で声を上げたのは、私と同じく此処の呼ばれてきた人物、たしかスライトと名乗っていただろうか。……まさか私に助け舟でも出す気か?





「……興味深い、御高説をお願いしましょう」


「……“信用出来る者を欲するなら、まず自らが信用される者であれ”ある高名な将軍が兵士たちに伝えた言葉だそうです、将軍の名は忘れましたがね。意味は説明せずとも解りますよね?」


「…………」





 ……一体何を考えているのだこの男は!?国家の重鎮に対して偉そうに高説をするなんて正気とは思えない、今私たちはコイツの機嫌次第で生き死にが決まると言うのに。


 生唾を飲みながら状況を見守る、暫く沈黙した後、最初に声を上げたのは政務だった。





「……成程、興味深い助言だ、有難く受け取ります」


「それは何よりです、では私は仕事に戻ります、政務とのお話は実に貴重な体験でした。フィアさんも研究所での仕事があるのでしょう?そろそろお戻りにならないと」


「確かにずいぶんと時間を割いてしまったようだ、お二人のお話は非常に参考になりました、この度の情報提供に感謝します。それとブランディッシュさん、貴女には少し怖い思いをさせてしまったようですね、軽い冗談だったのですが申し訳ありません。では御送りいたしましょう、客人のお帰りだ、丁重に御送りするように」





 先程まで殺気立っていたのは何だったのか、政務は落ちついた表情に戻っていた。


 政務が大きめの声を上げると、廊下に待機していたらしい兵士たちが現れた。彼らは慣れた動きで私達を城下まで導き、そのまま元の仕事場へと戻って行った。





 ……特に何も無く、あっさりと外まで出されてしまった。





 先程の事を政務は冗談だと言っていた、だがあれは本気の眼だった、あの鋭さが、冷たさが、肌に張り付いて離れないのだ。だが実際に殺されずに此処に居る、どういう事だ?スライトが言ったあの言葉には、何か隠れた意味があったのだろうか。





「……ねぇ、なんで私たちは生きてるのよ?」


「おお、初めての会話で深い質問をいたしますね。人類われわれはなぜ生きているのか、私なりの解釈で良ければ説明させて頂きますが……少し長くなりますよ?」


「とぼけるな!アンタが妙な事言った時こっちは本気で死ぬと思ったわよ!」


「おやおや、先ほどとはまるで別人だ、もしかしてそっちが普段通りなんですかね?」





 さっきまで必要のない事はベラベラ喋っていたくせに此方から聞き出そうとすると煙に巻く、コイツと話しているだけでイライラしてくる、この男はウァリィとは別の意味で私の天敵だ。


 あまりの腹正しさに思わず拳に魔力ちからが入る、それを見ても男は慌てた様子を見せず、両手を上げて降伏のポーズをとった。





「まあ落ちついてください、“怒りと拳は上げる程、後に己へと返ってくるもの”ですよ。先程のことですが、政務は最初から我々をどうこうするつもりが無かったのですよ、寧ろ絶対に生かして帰すつもりだったようです」




 ……?意味が分からない、私とコイツはあの男にとって如何でも良い存在に違いない、だからこそあのような話を私達を前にして語ったのだ。殺す価値も無い者ならまだ解らなくもない、なのに絶対に生かして帰す?私なんて寧ろ嫌悪の対象だ、そんな人間を如何して生かす必要があるのか。




 

「どういう事よ、お互いこの国にとって有益な人物ってわけではないでしょう?」


「私の理由は分かりますが、貴女のは分かりかねますね。ただ予想は付きます、お互い隠し事が多い身でしょ?ですからそれに関係した内容なのは間違いないですよ。っとそろそろ戻らねば、うちの上司は時間に厳しいのでね、ではまた機会があれば」





 そう言い放つとスライトという男は町の人混みの中へと消えてった、結局何者かと質問する暇も無かったな。政務にしてもあの男にしても解らない事だらけ、今は迷宮とあのバカの事で手いっぱいだと言うのに、更に問題が増えてしまった。





「……迷宮、私の隠し事、か。やっぱり、もう一度戻らないとね、あのバカの所に」





 アイツの言葉を信じるのなら、今回の謎はあの迷宮で起きた事に関連しているらしい。それが政務に何の関係があるのかは見当もつかない、だがどの道行く予定だった場所だ、今更変更するつもりもないし寧ろ都合がいいでしょう。




 ……さて、急いで身支度をしないとね!あちらで役に立ちそうな文献を行くつか持っていけば生活も幾らか楽になるでしょうし、私も研究したい事がいっぱいあるわ!あと鍋なんかも持ていかないとね、あんな場所じゃあ調理器具なんか揃わないでしょうし、料理はウァリィが作ってくれるでしょう!あ、それなら調理の本も持っていかないとね、デザートも載っている奴が本棚に合ったわよね!リップルベリーのパイとか美味しそうだったなぁ、絶対作ってもらわなくちゃ!というかアイツ本読めるのかしら?もしかしたら字も教えなくちゃいけないのかしら?もしそうなら何か共済が必要よね!たしか私が昔読んでいた絵本がまだあったはずね!まったく!本当に手間がかかるんだから!しかたないわね!私が居てあげないとアイツ何もできないんだから!!あ!その前に魔壊樹についての危険性もちゃんと教えておかないとね!じゃあ過去にあった災害についての資料も持っていかないといけないわね!あぁ!アイツのせいで荷物が増える一方じゃない!まったく!アイツは私にどれだけ苦労をかけるつもりなの!?帰ったらとっちめてやるんだから!!!





「さぁ!覚悟しなさいよウァリィ!!」






と言う事で、今回はフィアさん視点でした!地の文で柾さんの時と差別化が出来ているかが不安です。本編でのフィアさん復活はもうちょっと先になりますのでお楽しみに!


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