零章 前日譚
初心者ですので何かありましたらご指導をお願いします。
みんなはカミサマって信じるだろうか。
日本で伝えられている八百万の神とか、世界的にみても太陽神ラーだとかアトン神だとか、あと有名な死神だとか…。まあそんな感じのあれだ。
まあ俺もそういうオカルトなものはイマイチ信用できないのだけど、そういう話を聞いたりするのは嫌いじゃないし、科学が進歩した現代だからこそそういうのがワクワクしたりする。かっちりかっちりしたこんな現代だからこそ、そういった不可思議に心引かれる人の気持ちってのも分かる。誰もがそういった心を持っている。そんなサイエンティフィックな今だからこそ不可思議を信じれない人もいるだろうし、逆にそんな今だからこそ信じている人とか信じたいと思っている人もいる。十人十色である。
まぁ、その中でもたぶん俺は大多数派、ノーマルではあると思う。たぶん人並みだ。普通であろう。
そういえば、日頃よく『普通』というが、その世間一般に言われている『普通』とはなんなのだろうか。普通の人ってどんな人なんだろうか。
とある本で誰かさんが、
"もし、『普通の人』を決定する全ての基準項目をX軸、y軸、z軸……とした場合、本当に普通な人、つまり全ての軸が交わる一点というのは必然的に一点、1人ということになる"
と書いていた。そう考えると、普通の人っていうのは大多数ではなく、限りなく希少な存在ではないだろうか。普通の人という何事においてもピッタリ平均的な氷山の一角があって、それ以外すべてが普通じゃない人なのではないだろうか。
百歩譲っていくらかの端数を切り上げた範囲を普通の人としたとしても、それは果たして過半数の領域まで達するのだろうか。
さらに一万歩譲って、普通の人の領域を過半数に達するまで広げたとして、もうそれは普通の人という括りなのだろうか。もうその括りは純粋なものでなく、あまりにも雑な、玉石混合ではないだろうか。
でもたぶんこれが現実なんだ。一万歩譲ってやっと現実なんだ。
誰も普通の人という括りを知らないのに、普通の人とそうでない人の境界線を知らないのに、曖昧な感覚で普通を区別する。
区別して、差別する。
多くの人が曖昧な基準で普通でない人を区別し、差別し、拒絶する。
……………。
さて、なぜ俺がこんなに文才の欠片もないネガティブ且つ初心者丸出しな浅はか極まりない脳内論説をしていたかというと…。
「爺ちゃ~ん!! まああだああかあああああ~!!!!! 」
と。
まぁ、長時間の座禅によるストレスのせい、というわけで。
断花道場、つまり我が家の道場の真ん中で俺は座禅をしていた。ここから見える位置に時計はないので正確な時間は分からないけれど、体内時計、主に腹時計が長時間であると訴えている。
「情けないの~結よ。まだ9時間しか経っておらんというのに。」
と、俺の正面少し先にある入り口からひょっこりと爺ちゃんが現れた。小柄でなおかつ身軽な74歳だ。まぁ、それはともかく…。
「9時間? 」
「9時間。」
「今何時? 」
「23時じゃよ。」
4月8日。23時。それが本当なら始業式の前日である。しかし…。
すぐさま立ち上がり、爺ちゃんがいる入り口まで走っていき、置き時計を確認すると、長い針と短い針が重なっていた。
ちなみにこの置き時計、実際の時刻よりも一時間遅い。
したがって現在時刻は24時というわけで。
訂正、現在4月9日。俺、断花結は、春休み課題を何ひとつせず、始業式当日を迎えたのだった。
背筋が凍った。青ざめた。
自分が置かれている状況を把握したのち、体を180°回転させ、道場から家へと繋がる廊下を全力疾走した。
徹夜をすれば間に合うという希望をもって。
くっそぉあのジジイ‼ 何が座禅すれば宿題をする効率が上がるだ‼ 慌ててる時に勧められたから引っかかったじゃねーか‼
と、脳内反抗期をしつつも部屋へと向かった。道場と家は一本の渡り廊下で繋がっているとはいえ、とあるなかなか広い家一軒をよけるようにU字型になっているので、廊下の長さは直線距離の三倍以上になっており、あせっていたからかとても長く感じた。
「結ちゃーん! 修行お疲れ様ー! 」
と、渡り廊下中盤を迎えた頃、その一軒家の二階からいかにも元気っ子な声が飛んできた。能転気と言うかなんというか…。
「うっせー柏崎! ちゃんいうなちゃんを! 」
と俺はそいつに言葉を返す。その一軒家の二階からこちらを見下ろす同級生。幼馴染。柏木勇実に。
「えー、なんで? 可愛いじゃん! 結ちゃん! 」
「可愛くねーよ! 俺は男だっての! 」
そう、断花結はこの世に誕生してからずっと男である。現在男子高校生である。
しかし、俺の名前を見ていただいたら分かるように、タチバナ ユイ と、普通女性用である結と命名されてしまった俺。そんな俺は男子高校生として平均的な体格をしているのにもかかわらず、よく女の子として扱われてしまうのだ。正確には扱うというよりはからかうなのだが。
そして俺にちゃんを付け始めたのは何を隠そう勇美なのだ。確か小学4年生だった頃。今以上にこれに反抗心をもっていた当時の俺は何かと対策を練ったが、学校随一のネットワークを誇る勇美による流行は止められず、せめて反抗心の存在を主張すべく カシワザキ イサミ という男らしいあいつの名前を仕返しのつもりでバカにしてみたりはしたのだが、『嫉妬』ということであっさり処理されてしまったので、今では少々これについて俺は諦めモードなのである。
そのため俺は一方的な苦手意識を勇美に対してもっているのだ。
ちなみにこれは家族ぐらいしかしらないが、俺の名前は俺が生まれた半年後に事故で他界した両親からの唯一残してくれた形見なのだ。本来ならば大切にすべきなのだろうが、どうしてもこれに納得できずにいるのだ。
…。
「つーか悪いけど今忙しいんだ! じゃあな!」
そう、今の俺にはお話してる時間は一分一秒ないのだ。だから俺は先制して会話を終わらせた。世間では幼馴染というのは重宝される存在なのだが、生憎俺はそんなものを重宝するつもりはない。幼馴染も姉妹も、それがいい、というのはいないやつの幻想であって、いる方からすれば、大変理解不能なことなのだ。だいたいそんなのがいるからって仲がいいなんて限らないだろ?
ということで、俺は幼馴染、柏崎勇美をあしらって宿題へと向かっていくのだ。幼馴染<宿題である。
「そっかー。まあせいぜい頑張ってねー。宿題! 」
と後ろから聞こえたが振り向きもしなかった。
ただ、忙しいという言葉からすぐに宿題を連想した勇美に、若干驚いたのは事実である。
そうこうしながらも自分の部屋に到着。
さて…と。机の上に積まれている春休み課題を見る。量は多くは無いが、少なくとも二週間の春休み用に作られたものだ。あくまでも多くないとは二週間ならばであり、一晩では到底不可能な量である。教師共に解答冊子を抜かれた問題冊子にはなんの近道もなかった。
数分ばかり課題とにらめっこ。
夕食代わりのアンパンをくわえてさらににらめっこ。
………。
結論、諦めて寝る。
よく考えたら、俺の課題未提出は毎度のことだ。
気がつけば9時間経っていたという浦島太郎状態にあったので、焦りはしたが、結論たいしていつもと変わりないのだ。
よし、結論がでたならそれに従うまでさ。
こうして俺はベットに入った。午後1時のことである。
布団の中で
「あれ、凪に聞けばいいんじゃ…」
とか思ったりしたが、もう布団に入ってしまった以上、そこから出て妹の部屋に行き、宿題を見せてもらうなんて事は大変面倒くさい行動なのである。
そうして俺は最大の名案を棒に振って眠りについた。