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魔物探偵事務所~暗月と金眼~  作者: 星野翔


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第3章 墓前の懺悔、そして月夜の豹爪

第一幕:暗影に張り巡らされた蜘蛛の巣


ウィリアムが倒れたあの雨の夜は、アンバーの世界を完全に切り裂いた。


彼女は少女のような青くどさと恥じらいを脱ぎ捨て、婚礼の席で指にはめることの叶わなかったダイヤモンドの指輪をチェーンに通して、冷え切った胸元に固く抱いた。彼女は暗闇に潜む一頭のヒョウとなり、情報員としての鋭敏な嗅覚を頼りに、たった一人で軍部の巨大で腐敗した暗影の蜘蛛の巣を引き裂いていった。


調査が深まるにつれ、明かされる血塗られた真実は彼女の背筋を凍らせた——


軍上層部は既得権益を守るため、殘酷な「内部大清掃」を断行していたのだ。ウィリアムをはじめとする改革派の指導者たちは、真っ先に抹殺すべき対象としてリストアップされていた。そればかりか、軍部は黑市(ブラックマーケット)の犯罪組織「狂龍組」と裏で結託し、禁忌とされる魔核人体実験を利用して殺戮兵器を作り上げていたのだ。


そしてあの夜、親しくウィリアムの心臓を貫いた刺客の正体がついに浮かび上がる——軍部最高の暗殺兵器、「暗月の牙」・ブランシュ。


「ブランシュ……」


胸元の冷たい指輪を撫でながら、アンバーの金のキャッツアイは、暗い路地裏で身の毛もよだつ復讐の炎を燃え上がらせていた。


「お前の血で……この債を払わせてやるわ」


第二幕:修女服の下の幽鬼


数日後。寂けさに包まれたロンドン郊外で、古いゴシック様式の聖堂が陰鬱な薄霧に覆われていた。


アンバーは重みを感じさせない金色の残影となって、悄然と聖堂の屋根にある石彫の傍らに身を潜めた。彼女の雙足はすでに筋肉が引き締まった豹の脚へと異形化し、漆黒の爪先はレンガの隙間に食い込み、いつなん時でも首筋を切り裂く極速の一撃を解き放てるよう準備を整えていた。


"シュッ……と気配を断ち、影が音もなく滑り降りる――"


しかし、ステンドグラスの窓を透かして彼女の視線が聖堂的大ホールへと射し込んだ時、その光景に彼女の動作は凍りついた。


ホールの中央に聳え立つ冷たき十字架の下にいたのは、殘虐に殺戮を楽しむ暗殺者でも、血に塗れた軍の走狗でもなかった。


ただ一人、華奢で痩せこけた影が、この上なく質素で純白の修女服(シスター服)に身を包み、冷たい石床の上に重々しく両膝をついていたのだ。


ブランシュは両手を胸の前で固く握り締め、全身を寒風に震える落葉のように激しく震わせていた。彼女は瞳を閉じ、激しく震える唇で聖書を吟誦しながら、目角から溢れ出る熱い涙を流し続け、何度も、何度も神の前で額を床に叩きつけていた。まるでこの自傷に近い虔誠さによって、自分の両手にこびりついて離れない鮮血と罪悪を洗われんとするかのように。


「白々しい真似を……」


アンバーは歯を食いしばり、爪先を深く石の隙間に押し込んだ。殺し屋が人の目を欺くための偽装に過ぎないと、彼女は思おうとした。


第三幕:墓前の哭泣と血痕


祈りが終わり、聖堂内に重々しい鐘の音が響き渡った。


ブランシュは魂を失ったかのように立ち上がると、摘み取られたばかりの朝露の残る白い百合の花束を大切そうに抱え、静かに聖堂の裏門を出て裏手の墓地へと歩みを進めた。


アンバーは幽霊のように樹冠や高牆の間を無音で追跡し、胸の中の殺意を極限まで高めていった。


やがてブランシュは、隅にぽつんと新しく建てられた墓標の前で足を止めた。


その墓標には、アンバーの心を打ち砕いたあの名が刻まれていた——「ウィリアム・将軍の墓」。


"ドサッ……と荒い泥土に膝をつく音――"


ブランシュは躊躇うことなく、墓標の前の荒い泥土の上へ重々しく両膝を折りついた。彼女は百合の花を墓標の傍らに優しく添えると、額を冷たい墓標の石面に深く押し当て、胸を切り裂くような悲痛な泣き声(慟哭)を上げた。


「ごめんなさい……ごめんなさい、ウィリアム様……!」


ブランシュの声は擦り切れ、引き裂かれんばかりだった。彼女は両手を泥の中に強く突き立て、爪が割れて血が滲み出たのすら気づいていなかった。


「あの時、私を救ってくださったのに……それなのに私は……この罪に塗れた手で、あなたの心臓を貫いてしまった……私は怪物です……この世界に生きる資格なんてない……!」


彼女は墓標に向かって何度も、何度も額を打ち付けた。その一打一打に死を乞うような絶望が込められていた。


「お願いです……許してください……神様、どうかすべての罰を私にお与えください……それであなたの魂が安らぎ……アンバー様の無事が叶うのなら……!」


第四幕:躊躇う利爪


樹幹の上に身を潜めていたアンバーは、言葉を失うほどの衝撃を受けた。


夜風が吹き抜け、ブランシュの修女服の袖口がめくれ上がった。そこに見えたのは、彼女の手首に刻まれた粗暴な鉄の鎖による深々とした血痕——軍部が彼女と妹を支配するために施し続けた、拷問と禁錮の刻印だった。


墓標の前で全身を痛みに打ちひしがれ、手は血に塗れながらも後悔に満ち溢れている女性を、アンバーは見つめた。


その瞬間、アンバーは悟ったのだ。


目の前にいる刺客は、血に飢えた悪魔などではない。自分と同じように軍部の体制に踏みにじられ、運命に追い詰められた痛ましい魂(犠牲者)に過ぎないのだということを。彼女はウィリアムを殺したが、彼女の魂もまた、あの刃を突き立てた瞬間にウィリアムと共に死に絶えていたのだ。


アンバーは低頭し、冷酷な寒光を放つ己の豹爪を見つめ、そして胸元にあるウィリアムの残した指輪へと手を触れた。


生前のウィリアムが最も忌み嫌っていたのは、軍部が無辜(むこ)の人間を殺戮の道具へと変え去ることだった。もしウィリアムが今も生きていたなら、復仇のために墓前で苦痛に身を悶えさせて懺悔する痛ましい被害者を、自分がその手で殺すことなど絶対に望まないはずだ。


「ウィリアム……あんたってバカね。死んでなお、他人の救いになるなんて……」


アンバーの目頭が熱くなった。彼女は深く息を吸い込むと、異形化していた利爪を静かに収め、再び人の姿へと戻った。


彼女は降り立ってブランシュの首筋を刺し穿つことはしなかった。ただ墓前にひざまずき泣きじゃくる修女を深々としばらく見つめると、身を翻し、一筋の金色の疾風となって濃密な夜霧の中へと消え去ったのだった。

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