表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

真メリーさん

作者: ロータスシード
掲載日:2026/07/07

深夜二時。男のスマートフォンが、無機質なバイブレーションの音を震わせた。

画面に表示されたのは「非通知設定」。


男は、自嘲気味な笑みを浮かべて通話ボタンを押した。スピーカーから聞こえてきたのは、ひどく高くて硬質な、人工知能の合成音声に似た女の声だった。


『……私メリー。今、ゴミ集積所にいるの』


ツ、ツ、ツ……と切れる電子音。

男は驚かなかった。むしろ、待ち侘びていたとさえ言える。

「メリー」とは、数日前に彼が海外の怪しいサイトから大枚をはたいて購入した、最高級シリコン製の等身大ドールの商品名だった。人間と見紛うほどの美貌、吸い付くような肌の質感。しかし、ワンルームの狭い部屋にそれを置いたとき、あまりの「生気のなさ」に薄気味悪さが勝り、男は昨夜のゴミ回収に合わせてそれを不法投棄したのだ。


だが、捨ててから気づいた。あの圧倒的な虚無感。冷たいシリコンの感触が、奇妙な依存症のように男の脳裏から離れなくなっていた。


ジリリ、と再びスマートフォンが鳴る。


『私メリー。今、十字路の角にいるの』


男はベッドから起き上がり、部屋のクローゼットを開けた。


『私メリー。今、あなたのアパートの階段の下にいるの』


外からは、怪談の原典にはない、生々しく重苦しい音が響き始めていた。

ペタ……ペタ……、ズズ……ズズ……。

百キロ近いシリコンの塊が、自らの意思でコンクリートの階段を這い上がってくる、摩擦と不快な打撃音。それは確実に、この部屋へと近づいている。


『私メリー。今、あなたの部屋のドアの前にいるの』


ガタガタ、と玄関のドアノブが激しく揺れた。チェーンはかかっていない。鍵もあらかじめ開けてある。

だが、そこから音が止んだ。静寂が部屋を支配する。


男は静かにベッドの上に腰掛け、スマートフォンを耳に当てた。画面はまだ通話状態のままだ。

沈黙を破り、男の背後の闇から、冷たい空気とともにあの声が直接響いた。


『私メリー。今、あなたの後ろにいるの』


ゆっくりと振り返った男の目は、暗闇の中でらんらんと輝いていた。恐怖など微塵もない。そこにあるのは、ねっとりとした狂気的な歓喜だった。


「――待ってたよ、メリー」


男は、ベッドの上に丁寧に並べてあった「それら」を愛おしそうに掲げた。

男の手には、妖しく光る深紅のシルク製ランジェリーとTバックショーツ。そして、枕元には様々なサイズや形状をした、禍々しい存在感を放つディルドやローターといったアダルトグッズの数々が、完璧な戦闘態勢でセッティングされていたのだ。


男はシャツのボタンを一つずつ外しながら、メリーに向かってじりじりと這い寄る。


「捨てるなんてとんでもない。ちょっと部屋を片付けて、君を迎える準備をしてただけさ。さあ、一晩中可愛がってあげるから……こっちにおいで」


その瞬間、暗闇の中で等身大ドール「メリー」の端正なシリコンの顔が、見たこともない形に歪んだ。

生気のないはずのガラスの瞳が恐怖に大きく見開かれ、顎の関節がガタガタと震え出す。


「……いやぁぁぁぁぁぁぁーーーっっっ!!!」


鼓膜が破れんばかりの、人間のものとは思えない絶叫をあげたのはメリーの方だった。

彼女は、持っていたはずのスマートフォンを床に放り出すと、凄まじい筋力とスピードで反転。開け放たれた玄関のドアへと猛ダッシュで逃げ出した。


ドタドタドタドタ!! ズズゥゥン!!


巨体を激しく壁にぶつけながら、夜のアパートの廊下を、文字通り脱兎のごとく逃げ去っていくシリコンの足音。


「あっ、待ってよメリー! サイズもぴったり合わせて買ったんだからさぁ!」


男は深紅のランジェリーを片手に、夜の廊下へと消えていく哀れな怪異の後ろ姿を、名残惜しそうにいつまでも追いかけていた。その日以来、男のスマートフォンに非通知の電話がかかってくることは二度となかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ほんとのメリーさんはこうなんですね。 AI直接使用とありますが、本作品は何割ぐらいがAIのアイデアが混じっているのでしょうか。 私の想像では、ほとんどが作者さんの好みと傾向にあるように思えてしまうので…
文句なしに面白かったです。 定番のメリーさんをラブドールにし、ましてやランジェリーとアダルトグッズと用意して迎えようとするとは、なかなかのアブノーマル的発想です。短編としてのツイストも利いていました。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ