転生したらサドルだった……!
「ああ、サドルになりたい……」
今日も、俺は通りでキョロキョロしている。サドルを見るために。
「……あっ、おばあさん。気を付けてください、車が来てますよ」
「すみませんねぇ。親切に」
「いえいえ……むむっ」
女性が自転車で通り過ぎる……!
俺は目で追った。
なんというすばらしい一品だ……。俺は目で追う。
目で追う。
目で……あれ?
──いつのまにか、俺はどこか知らない場所にいる。
「……おい、新入り!」
「え? ここはどこですか?」
「ここはあの世で、わしはエンマ大王じゃ」
「エ、エンマ様!? もしかして、俺、死んだんですか?」
「その通りじゃ。えーっと、お前は左弗 成太で間違いないな?」
「は、はい……。あの……俺、なんで死んだんですか?」
「覚えとらんのか。お前は、自転車を目で追っていて、トラックにはねられたんじゃよ」
「あー、そういえば……」
「やれやれ。ところで、お前は変態じゃが、なかなか善行を積んでおるな。天国へ行くがよいぞ」
「善行なんかじゃないですよ。俺は、変態だとばれないように、おばあさんとかに親切にしていただけなんですよ」
「かまわん。人間は、何をしたかで善悪が決まるんじゃ。動機は関係ない」
「そうですか。ところで、天国よりも、転生ってできませんかね?」
「転生したいのか? じゃあ、中世の英雄にでもなるか?」
「いいえ」
「じゃあ、貴族がいいか?」
「いいえ」
「じゃ、何に転生したいんじゃ?」
「サドルになりたいんです!」
「……は? サドルって、あの自転車のサドルか?」
「はいっ!」
「それ、もはや生物ですらないぞ。そんなもんに転生してどうする……」
「お願いします! エンマ様」
「ま、まあ、そこまで言うなら。じゃ、サドルに転生するぞ。ほんとにいいんじゃな?」
「はい、ぜひともお願いします……」
俺の体が消えていく……。
────
気づけば、俺は別の場所にいた。
「ここはどこだ?」
周りには自転車が並んでいる。どこかのスーパーの駐輪場だ。
「や、やった。本当にサドルに転生したぞ!」
俺は歓喜した。
といっても、サドルだから動くこともしゃべることもできない。
「は、早く持ち主が来ないかなあ……来た!」
スーパーの出入り口から、買い物を終えた女性が向かってくる。
「うおっ。美人じゃないか。来た来た。さあ、思いっきり乗ってくれ……あれ?」
その女性は、となりの自転車にまたがり、走り去った。
「あ~あ、他の自転車の持ち主だったのか」
別の女性が、スーパーから出てきた。
「おお、今度こそ。さあ、どうぞ乗って……」
女性は、別の自転車で帰って行った。
「なーんだ。まあいい。待てば、そのうち持ち主が来るさ」
俺は待つ。
1人、また1人とスーパーの客が他の自転車に乗って行く。
とうとう駐輪場は俺1台になってしまった。
「あ、また誰か出てきた」
スーパーから出てきたのは、太めの中年男だった。
「ま、まさか……。こっちに向かってくるぞ!」
男は、俺の自転車のハンドルを握ると片足を上げた。
「ま、まって! やめて。そ、それだけは……それだけはあ……!!」
男はキョロキョロした。
「……ん? なんか声が聞こえたような?」
男は自転車にまたがって発進すると、人目も気にせずに鼻歌を歌い出した。
「俺は~街の~自転車ぁ乗り~♪」
(……おええ、なんて下手な歌だ)
プウウゥゥーー。
(%&#!? こ、こいつ屁ぇこきやがった。グエッホゲホ)
「フンフーン♪」
(だ、だれか……。だれか、助けてくれえ……!)
──いっぽう、あの世では。
「あいつ、変わってるなあ。天国へ行けるのに、わざわざあんな目に遭いたいのかあ」
エンマ大王と鬼たちが、大型モニターでシャバの様子を見ている。
「マジモンの変態だな」
エンマの言葉に、鬼たちがうなずいた。
「ま、サドルの寿命は5年くらいだから、そのうちまたここに来るだろう」
(おわり)
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