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転生したらサドルだった……!

掲載日:2026/06/24

 

「ああ、サドルになりたい……」


 今日も、俺は通りでキョロキョロしている。サドル(・・・)を見るために。


「……あっ、おばあさん。気を付けてください、車が来てますよ」


「すみませんねぇ。親切に」


「いえいえ……むむっ」


 女性が自転車で通り過ぎる……!

 俺は目で追った。


 なんというすばらしい一品だ……。俺は目で追う。


 目で追う。


 目で……あれ?



 ──いつのまにか、俺はどこか知らない場所にいる。



「……おい、新入り!」


「え? ここはどこですか?」


「ここはあの世で、わしはエンマ大王じゃ」


「エ、エンマ様!? もしかして、俺、死んだんですか?」


「その通りじゃ。えーっと、お前は左弗さどる 成太せいたで間違いないな?」


「は、はい……。あの……俺、なんで死んだんですか?」


「覚えとらんのか。お前は、自転車を目で追っていて、トラックにはねられたんじゃよ」


「あー、そういえば……」


「やれやれ。ところで、お前は変態じゃが、なかなか善行を積んでおるな。天国へ行くがよいぞ」


「善行なんかじゃないですよ。俺は、変態だとばれないように、おばあさんとかに親切にしていただけなんですよ」


「かまわん。人間は、何をしたかで善悪が決まるんじゃ。動機は関係ない」


「そうですか。ところで、天国よりも、転生ってできませんかね?」


「転生したいのか? じゃあ、中世の英雄にでもなるか?」


「いいえ」


「じゃあ、貴族がいいか?」


「いいえ」


「じゃ、何に転生したいんじゃ?」


「サドルになりたいんです!」


「……は? サドルって、あの自転車のサドルか?」


「はいっ!」


「それ、もはや生物ですらないぞ。そんなもんに転生してどうする……」


「お願いします! エンマ様」


「ま、まあ、そこまで言うなら。じゃ、サドルに転生するぞ。ほんとにいいんじゃな?」


「はい、ぜひともお願いします……」


 俺の体が消えていく……。



 ────



 気づけば、俺は別の場所にいた。


「ここはどこだ?」


 周りには自転車が並んでいる。どこかのスーパーの駐輪場だ。


「や、やった。本当にサドルに転生したぞ!」


 俺は歓喜した。

 といっても、サドルだから動くこともしゃべることもできない。


「は、早く持ち主が来ないかなあ……来た!」


 スーパーの出入り口から、買い物を終えた女性が向かってくる。


「うおっ。美人じゃないか。来た来た。さあ、思いっきり乗ってくれ……あれ?」


 その女性は、となりの自転車にまたがり、走り去った。


「あ~あ、他の自転車の持ち主だったのか」


 別の女性が、スーパーから出てきた。


「おお、今度こそ。さあ、どうぞ乗って……」


 女性は、別の自転車で帰って行った。


「なーんだ。まあいい。待てば、そのうち持ち主が来るさ」


 俺は待つ。


 1人、また1人とスーパーの客が他の自転車に乗って行く。


 とうとう駐輪場は俺1台になってしまった。



「あ、また誰か出てきた」


 スーパーから出てきたのは、太めの中年男だった。


「ま、まさか……。こっちに向かってくるぞ!」


 男は、俺の(・・)自転車のハンドルを握ると片足を上げた。


「ま、まって! やめて。そ、それだけは……それだけはあ……!!」


 男はキョロキョロした。


「……ん? なんか声が聞こえたような?」


 男は自転車にまたがって発進すると、人目も気にせずに鼻歌を歌い出した。


「俺は~街の~自転車ぁ乗り~♪」


(……おええ、なんて下手な歌だ)



 プウウゥゥーー。



(%&#!? こ、こいつ屁ぇこきやがった。グエッホゲホ)


「フンフーン♪」


(だ、だれか……。だれか、助けてくれえ……!)



 ──いっぽう、あの世では。



「あいつ、変わってるなあ。天国へ行けるのに、わざわざあんな目に遭いたいのかあ」


 エンマ大王と鬼たちが、大型モニターでシャバの様子を見ている。


「マジモンの変態だな」


 エンマの言葉に、鬼たちがうなずいた。


「ま、サドルの寿命は5年くらいだから、そのうちまたここに来るだろう」



(おわり)


お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ひどい……これはひどい話だ(誉め言葉)笑。
これ、5年後に来てまたサドルになりたいと言えましたら、根性ありますよね!٩( 'ω' )و いやー、でも流石に言わないですかね……(^◇^;) 読ませて頂きまして誠にありがとうございました。 m(_…
とんだ転生になってしまいましたね(笑) そして、サドルの寿命は思ったよりずっと短いのですね。 私も自分の自転車を大切にしたいと思います。
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