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非公開調整会議

内閣官房 地下会議室


窓はない。

長机の上には、ペットボトルの水と紙コップ。

壁のスクリーンにスライドが投影されている。


出席者

農水省 食料安全保障室長

農水省 米政策課長

財務省 主計官

内閣官房 参事官

防災担当官

若手官僚 数名


室長が軽く咳払いをする。


食料安全保障室長


「では、備蓄米、飼料米、MA米の再設計について整理します。」


スライドが切り替わる。

若手官僚(読み上げ)


「旧制度。

備蓄米:

銘柄米 20万トン × 5年保管

飼料用米:

専用品種 50〜80万トン/年

MA米:

業務用 77万トン」


主計官が、即座に口を開く。

「まず言っておきます。銘柄米の5年保管は、金がかかりすぎた。」


一同、無言。


主計官

「保管費、入れ替え費、品質管理費。しかも、最後はほぼ飼料にしかならない。」


防災担当官

「非常時に必要なのは、味じゃありません。量とスピードです。」


内閣官房 参事官

「非常時で“銘柄”を気にする余裕はない。」


米政策課長

「……ですが、備蓄米を銘柄から外せば、零細農家の価格支持機能が消えます。」


主計官

「それは、本来の目的ではない。」


空気がわずかに張る。


主計官

「備蓄は“保険”です。価格対策ではない。」


一拍。


主計官

「政治家は、そこを混ぜたがる。」


室長が話を戻す。


食料安全保障室長

「新制度案は、こうなりました。」


スライドが切り替わる。


若手官僚


「新制度。

備蓄米:

銘柄米 25万トン × 3年

理想形:

多収主食用米 20万トン × 3年」


内閣官房 参事官

「“美味い米”から、“食える米”へ。」


農水省幹部の表情が曇る。


農水省幹部

「農家が荒れます。」


主計官

「荒れるのは、いつもです。」


沈黙。次のスライド。


飼料米

「旧制度:

専用品種 50〜80万トン/年


新制度:

専用品種 10万トン(不採算地対策)

非主食米 20万トン

主食転用可能米 20万トン


理想形:

専用品種 30万トン(不採算地用 雑穀転換も視野)

非主食 20万トン

主食転用 20万トン」


防災担当官

「要するに、“非常時に人が食えない米”を減らす。」


内閣官房 参事官

「飼料専用は、災害時に何の役にも立たない。」


米政策課長

「……畜産が反発します。」


主計官

「承知しています。だから、MA米で手当する。」


防災担当官

「二刀流ですね。」


内閣官房 参事官


「平時は家畜。非常時は人間。」


農水省幹部

「……言い方に配慮を。」


次のスライド。

MA米

「旧制度:

業務用 77万トン


新制度:

飼料用 25万トン

業務用 52万トン


理想形:

飼料用 77万トン」


主計官


「率直に言います。輸入米を“人間用”に回す必要はない。」


防災担当官

「非常時は国産で足ります。」


内閣官房 参事官

「MA米は、家畜に食わせる。それが最も合理的です。」


農水省側

「業務用が足りなくなります。」


主計官

「その分、国内を“業務に回せる構造”に変える。増産する。」


食料安全保障室長

「そこで、“高度集約特区”です。」


スライドが切り替わる。


特区の役割

「零細農家の静かな退出。

中核農家の集約。

非農業資本による雇用型農業。

不採算地の“最低限の管理化”。」


一拍。


室長

「目的は生産性ではない。消滅防止です。」


内閣官房 参事官

「全ての農家を守る制度ではありません。」


沈黙。


参事官

「必要な農家と土地を残す制度です。」


防災担当官

「耕作放棄は治安リスクです。獣害、荒廃、インフラ破壊。」


主計官

「固定資産税も消える。」


農水省幹部

「……大規模農家は?」


内閣官房 参事官

「市場に任せます。」


主計官

「彼らは、死なない。」


米政策課長

「……零細は?」


参事官

「静かに退場してもらう。

引退もできる。

サラリーマンにもなれる。」


誰かが、小さく呟く。

「……安楽死だな。」


室長

「言葉には気をつけてください。」


沈黙。


主計官

「結論を言います。」


全員が顔を上げる。


主計官

「これは“農業政策”ではありません。」


一拍。


主計官

「国家安全保障政策です。」


内閣官房 参事官

「田畑は、食料インフラです。」


防災担当官

「インフラは、“採算”より“残存”が優先される。」


農水省側

「……現場が反発します。」


主計官

「分かっています。」


内閣官房 参事官

「だから、“強い農家”には説明しません。」


農水省幹部

「……は?」


参事官

「彼らは理解する。」


主計官

「なにより、数が少ない。」


沈黙。


食料安全保障室長

「では、特区のモデル地区は――」

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