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直営農場事業 参入検討

ガラス張りの高層階。

窓の向こうには都市のビル群。

長いテーブルの中央にモニター。スライドの表紙。


「直営農場事業 参入検討」


出席者:

・社長

・専務(財務)

・常務(商品部)

・法務部長

・広報部長

・農業事業準備室長(元商社)


モニターが切り替わる。


準備室長

「ではご説明します。政府が来年度から開始予定の“休耕地限定・企業参入型特区制度”を前提に、当社が直営農場に参入した場合のシミュレーションです。」


スライド。


・取得可能:完全休耕地のみ

・転用禁止

・地域雇用義務

・10年営農後に取得可

・米作不可

・指定野菜制度対象外


専務(財務)

「結論から言ってくれ。儲かるのか?」


準備室長

「“儲ける事業”ではありません。

“価格安定装置”です。」


一瞬、沈黙。


常務(商品部)

「……価格安定装置?」


準備室長

「はい。現在、当社の最大リスクは“調達価格の乱高下”です。」


スライドが切り替わる。


・天候不順

・為替

・戦争

・輸送コスト

・産地縮小


準備室長

「農家が減るほど、価格は不安定になる。

不安定になるほど、我々は値付けできなくなる。」


社長

「それで、農場を持つと何が変わる?」


準備室長

「“最低供給量”を自前で持てます。」


法務部長

「ただし、この制度、縛りが多い。

転用不可、売却制限、雇用義務……

正直、“自由”はありません。」


準備室長

「自由にやりたいなら、そもそも農業に手を出すべきじゃありません。」


静かだが、はっきりした口調。


広報部長

「“炎上”のリスクは限定的です。

『大企業が農地を奪う』『農家を駆逐する』

この文脈には乗りません。」


準備室長

「休耕地限定です。

“誰も使っていない土地”しか取れない。

しかも地域雇用義務付き。」


常務

「つまり?」


準備室長

「“雇う側”になります。

農家を押し出す側ではなく。」


沈黙。


社長

「……農業を“事業”じゃなく、“インフラ”として扱う、ということか。」


準備室長

「はい。」


専務(財務)

「数字を出せ。」


準備室長

「初期5,000ヘクタール。

社員500人。

年収320万円。

社保込みで約400万円。」


専務

「……年20億か。」


準備室長

「固定資産税免除、赤字損金算入、物流統合で一部相殺されます。」


社長

「人件費が安いな。少しかわいそうだ。」


準備室長

「地方基準では妥当です。

退職金DCもあります。月5,000円、公費拠出。」


常務

「何より、“自社の棚が空にならない”。

確保済みの商品でプロモーションが打てる。

パクチー、エシャロット、スーパーフード……」


広報部長

「キャベツが500円のとき、

うちだけ200円で出せたら、話題性は抜群です。

……逆は考えたくない。」


社長

「やれるのか?」


準備室長

「“逆張り”をします。

収量最適ではなく、天候耐性最優先の品種構成。

通常の農家には難しい設計です。」


広報部長

「CMにも使える。直営レストランとの相性もいい。」


法務部長

「ただし、撤退時の義務は重い。

“現地社員が希望すれば、会社設立支援”。

相当踏み込んでいます。」


社長

「いいじゃないか。

10年後に、続けるか、外注するか、選べる。」


少し間。


社長

「我々は、“安く仕入れる会社”でいるか、

“止まらない会社”になるかだな。」


専務

「……参入は、“利益”じゃなく“保険”ですね。」


準備室長

「国家インフラと同じ扱いです。」


社長、ゆっくりと頷く。


社長

「よし。“試験参入”だ。」


広報部長

「言い方を考えます。」


社長

「“農業に投資”じゃない。

“地域を維持する”だ。」


会議室に、静かな緊張が走る。


社長

「我々は、“安売りの会社”で終わる気はない。」


窓の外。

都市の夕焼け。


遠く離れた田んぼの話が、

今、ここで“経営判断”になっている。

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