表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/34

最終話 10年後

浦木は勝十ですき焼きの材料を買いながら日本の農業の未来について考えていた。

カートを押すのは自分。隣には赤ん坊を抱いた妻がいる。


名物の霜降りジャンボパックは少し多すぎるが、残りは肉じゃがにすればいい。

食肉コーナーには牛、豚、羊、鶏が均等に並んでいる。


昔と違い、野菜コーナーも充実していた。

季節感は薄れたが、種類も品質も申し分ない。

レトルト総菜はさらに増え、聞き慣れない産地や野菜名も珍しくなくなった。

エジプトほうれん草のお浸しって何だろう?。


里山は手入れされ、山羊や羊の鳴き声が少しうるさい。

だが、それも今では日常の音だ。


若年就農者の半分以上はサラリーマン出身だという。

三十代の自営農家も少しずつ増えてきた。

田中さんのところの直人君のように自分の農場を切り盛りする人たちだ。


田中さんは、北海道を代表する米農家になった。

「おまえらのせいで、JAの集会場がすっかり寂しくなった」

そう言って、八つ当たり気味に笑う。


ななつぼしは、今も趣味と意地で作り続けている。

残りは多用途米、小麦、大豆で地域と市場を支える。

彼のななつぼしは金賞の常連で、毎年十キロだけ送ってくる。

「残りはお前の好きな飼料米でも食ってろ」と、いつもの書き添え付きだ。


直人君も独立し、若手農家として奮闘している。

うまくいってほしいと思う。


近藤さんはブランド牛の生産者になった。

三ツ星レストランに納入する牛を自分の手で育てている。

A5ではなく誇りと品質で勝負する肉だ。


一度、彼の牛を出す店に連れていかれた。

一人前十万円。感想を求められたが、「美味しいです」以外言いようがなかった。


ジャンボパックのA3霜降り肉はすっかり一般化し、

一方で高級牛は別の方向へ進化している。


斎藤先生は、農水族の重鎮議員になった。

翔君は、自分で作った「サラリーマン農家独立支援制度」を使い、農家になった。

今は淡路島で畑に立ちながら、農業や外国人労働者について発信を続けている。

本人はもう国会議員はこりごりだと言っているが、そう簡単に逃げ切れる気もしない。

「よりによって淡路島とは……」と思わずつぶやく。フラグは確かに立っていた。


俺自身は――

二十歳年下の妻を得て、五十五歳で子どもができた。


この子が飢えない未来のために、今日も考えをめぐらせる。

目の前のジャンボパックを見ながら、ふと呟く。


「次は……大豆かな」


畑も、スーパーも、制度も、家族も。

すべてがつながり、静かに、確実に未来を育てていた。

エジプトほうれん草はモロヘイヤの別名です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ