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農家になろう!

「政治家になろう!」の所属議員には義務がある。

隔週金曜、夜十時から始まるチャット配信

――「政策を作ろう!」への参加だ。


議員限定の書き込みだが配信は完全オープン。

誰でも視聴できるが、書き込みは事前登録とクレジットカードが必要。

千円のスパチャを投げればコメントが読まれる。

炎上対策にもなり、議員本人に直接言葉が届く。

しかも領収書が出る。政治献金扱いだ。


駆け引きなしで手札をさらし公開の場で政策を作る。

頭がおかしいと言われている。


与野党両方にスパチャを投げる議員もいる。

同姓同名の別人か、制度の抜け穴か。誰も深く追及しない。


今日も全員参加だ。

ここでの発言がそのまま議員としての発信になる。

同時接続は常に一万人を超える。そんな場所は他にない。


翔が口を開いた。


「サラリーマン農家の独立支援制度を作りたい。

JAから低料金で農地を借りる。

五年以上耕作したら、評価額を抑えて購入できる仕組み。

中古農機のレンタル支援もセットでやりたい」


議員Aが言う。

「JAが、自分の商売敵を育てる手伝いをするか?」


翔は即答した。

「土地が余って、管理できなくなっている場所が出てきています。

場所にこだわらなければ、借りられる土地はある」


議員Bが笑う。

「農業サラリーマンなんて、腰掛けだろ。失敗するやつも多い」


「失敗してもいい」

翔は言った。

「挑戦できる仕組みが必要なんです。

ぼくらが国会議員をやっているのと同じで」


コメント欄が流れ始める。


〈JAですが協力できると思います〉

〈農地放棄よりマシ〉

〈機械レンタルの全国ネットあります〉


千円のスパチャが積み上がる。


「失敗する人は、今でも失敗しています」

翔は続けた。

「入口が、狭すぎるだけだ」


「この制度は、“農業を職業に戻す”ためのものです」


〈JAですが協力できると思います〉

〈JAですが協力できると思います〉


その夜、議論は年金、道路財源まで及び、深夜一時を回った。


制度は斎藤の事務所で詰められ、官僚が整えた。

翌年、与党から法案として提出された。


JAや企業農場で経験を積み、

脱サラして独立する農業サラリーマンが現れ始めた。

農地不足の次男や番頭さんの独立にも使われた。


想定外も起きた。

外国人の羊放牧。

揉め事が起き、僕が元凶にされた。


制度成立から四年後、衆議院選挙には出なかった。


「もう、やることはやった」


逃げたようだと言われた。

(それは事実だ。次の候補者達が強烈すぎるんだ。あの人たちのリーダーなんて無理だ。)

惜しむ声も多かった。

(ごめん。SNSの発信は続けるから許して)


だが僕はスーツを脱ぎ、長靴を履いた。


自分で借りた農地。自分の名前の出荷伝票。

作物は玉ねぎをメインにした。

値崩れしにくいし、色々な料理に使える。

加工用も多いからB品作っても売りさばける。


畑に立つと、不思議と心が静まる。


制度は残る。

人は育つ。

政治は、使い切った。


夕方、畝の間で汗を拭く。

遠くでトラクターの音がする。

きっと、制度を使って独立した誰かだ。


この島は彼女の勤務地だ。遠距離恋愛は解消できた。早く結婚したい。

僕は鋏を持ち直し畑に戻った。



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