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農業サラリーマンの現場から

斎藤さんは、農場を辞めて国会議員になった。


辞めた、と言っても、突然いなくなったわけじゃない。

選挙があって、事務所を作って、引き継ぎをして。

静かに、現場から外れていった。


新しい農場長は、地元の農家さんだった。

腕は確かで、無口で、判断が早い。


僕は生産課長になった。


――早すぎないか?


そう思わなかったわけじゃない。

でも、誰も反対しなかった。


午前十時。

休憩時間。


翔の横で、カルロスとホセがスマホに向かってポルトガル語で話している。


「あと一年だな」


カルロスが言う。


「俺たちのお先、ピカピカ」


いつものセリフだ。


ブラジルに婚約者がいるらしい。

写真も見せてもらった。


僕は、少し羨ましかった。


――彼女、欲しいな。


カルロスとホセは、出稼ぎ組だ。

一方で、ここには定住しているブラジル人もいる。

その二世もいる。


同じブラジル人でも、全部ちがう。


最近は、帰化する二世が増えているらしい。

理由を聞くと、少し言葉を選んでから、こう言った。


「今の政治、ちょっとこわい」


帰化した方が、安全だと。


ここら辺では、日本人とブラジル人は仲がいい。

ブラジル人の店のソーセージは、日本人にも人気だ。


都会では、違うのだろうか。

ニュースを見るたび、そう思う。


問題外国人。

外国人問題。


翔は、そこを一緒にするなと思っている。


昼休み、翔はスマホをいじりながら言った。


「個人だと、見えるもん違うよな」


翔は、SNSで発信を続けている。

農業の話と、外国人の話。


派手な言葉は使わない。

現場で見たことを、そのまま書く。


たまに炎上するが、消さない。


斎藤さんにも、メールを送る。

忙しいはずなのに、返事が来る。


短い。

でも、ちゃんと読んでくれているのが分かる。


農場は、今日も動いている。


誰かが辞めても、

誰かが昇格しても、

外国語が飛び交っても。


作物は育つ。


それが、今の現場だった。


翔は思っている。


このままでは、いずれ誰かが代表になる。

勝手に、名前をつけられる。


だったら。


自分で話した方がいい。


まだ、先の話だ。

今は、畑が先だ。


だが、その芽は、

もう静かに土の中で伸び始めていた。

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