予兆
直営農場事業の中間報告書は、三十ページほどの厚みがあった。
紙は白く、数字は整っている。
群馬事業所は、三年目に入った。
作付面積は百ヘクタール。
確保済み農地は百五十ヘクタール。
主力はキャベツ、玉ねぎ、ジャガイモ、人参。いわゆるカレーライスセット。
天候リスクは想定内。
人員配置も安定。
収量は計画比九十八パーセント。
「順調」と書くには十分な数字だった。
次のページ。
第二事業所の検討状況。
候補地は三つ。姫路、加西、徳島。
いずれも、輸送距離、労働力、遊休農地の条件が揃っている。
自治体の反応も悪くない。
「展開可能」
報告書はそう結論づけていた。
だが、ページをめくると、空気が変わる。
別紙。
首都圏小売動向。
北海道資本の焼肉大手「勝十」がローカルスーパーグループを買収。
激安業態として首都圏に三店舗を出店した。
売場構成は極端だった。
・ナショナルブランド調味料の欠落をローカルブランド品での代替
・鮮魚はほぼ無い
・野菜、果物は中国産が中心
品ぞろえには明らかな穴がある。
だが――。
牛乳は、他店より二十円安い。
すき焼き用霜降り肉。八百グラムのジャンボパック。グラム五百円。
その他の牛肉も通常価格で二割近く安い。
弁当は百円安い。
イートインはフライドポテトとソーセージ。量が多く安い。
数字だけを見れば破壊力は十分だった。
報告書にはこう記されている。
「品ぞろえの不備を承知の上で来店する客層が存在する」
「価格訴求力が商品構成上の弱点を上回っている」
まだ脅威ではない。
しかし、他の大手が直営牧場経営に本格参入したらどうなるか。
今は準備期間だ。
直営農場と小売はまだ噛み合っていない。
次の三年が勝負になる。
市場は待ってはくれない。
勝十の登場はそう告げていた。




