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疎外感

JAの集会場は、冬だというのに妙に蒸し暑かった。


長机がコの字に並び、正面にはスクリーンと演台。

壁際ではストーブが唸り、湯気の立つ紙コップのコーヒーが配られている。


新飼料米制度の説明会。

対象は、畜産農家だった。


肉牛専業の近藤は、後方の席に腰を下ろし、腕を組んでいた。


前に立つ斎藤の声が、抑揚なく会場に流れる。


「……まず、養鶏・養豚向けの飼料米についてですが――」


スライドが切り替わる。

鶏、豚。

配合比率、コスト、補助単価。


次は乳牛だった。


「こちらが、飼料イネの導入事例です。泌乳量への影響は――」


またスライド。

牧草地、ロールベール、試験データ。


近藤は、ぼんやりと頷きながら聞いていた。


(まあ……関係ねえか)


肉牛に米は食わせない。

トウモロコシと牧草。それが常識だ。


そう思いながらも、なぜか時計ばかりが目に入る。


説明は続く。


「次に、非常時における飼料確保の考え方ですが――」


非常時。

その言葉に、近藤はわずかに背筋を伸ばした。


だが、話はまた鶏と豚、乳牛へと戻る。


肉牛の話は、最後まで出なかった。


誰も質問しない。

肉牛農家も、黙ったままだ。


(……まあ、俺たちは関係ない)


そう結論づけようとして、近藤はふと違和感を覚えた。


(関係ない、で済ませていいのか?)


制度の話なのに、

「除外されている」という説明は、どこにもない。


ただ、話題に出ないだけだ。


説明会が終わり、人がばらける。


近藤は紙コップを捨てながら、天井を見上げた。


(聞かされなかった、って感じだな)


数日後。

雪解けが進み始めた頃、近藤は田中を訪ねた。


近藤

「この前、JAの説明会あったべ」


田中

「ああ、新飼料米だろ。うちもやるぞ」


近藤

「鳥と豚と、乳牛の話ばっかりでさ。肉牛の話、最後まで一言も出なかった」


田中は、黙って聞いている。


近藤

「俺らは米、関係ねえからな。そう思えばそれまでなんだけど……」


言葉を切る。


近藤

「なんか、変じゃねえか?」


田中は湯飲みを置き、少し考えてから、ゆっくり言った。


田中

「……浦木がな、前に言ってた」


近藤

「誰だ、それ」


田中

「国会議員の秘書だ」


田中

「強いやつらは後回しだって。お前らは、まだ大丈夫だからだって」


近藤

「俺らも楽はしてねえぞ。焼肉屋の直営牧場とか、出てきてるしな」


田中

「本州には、今にも死にそうなやつらが山ほどいるんだと」


近藤は眉を寄せる。


近藤

「給食の牛乳を、自分の県で作れねえところもあるらしいな」


田中

「説明しないってことはよ」

「説明する必要がない位置に置かれてる、ってことだ」


近藤

「……最初から、想定外か」


田中

「多分な」


二人の間に、沈黙が落ちる。


(関係ないと思ってた。

でも、関係がないって、決められてたのかもしれん)


外では、雪解け水が静かに流れている。


春は来る。


ただし――

誰のための春かは、もう決まっている。


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