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非公開調整会議2

会議室。

窓はない。


壁は淡いグレー。

長机の上には、紙の資料とペットボトルの水だけが並んでいる。


時計の音が、やけに大きい。


出席者は少ない。

官僚、研究者、関係省庁の調整役。


席の端に、浦木が座っている。

名札には、「食料安全保障室長」。


司会役の男が言う。


「それでは、非公開調整会議を始めます」


誰も、うなずかない。

始まることは、分かっている。


資料が、めくられる。


「まず、食料安全保障の優先対象について」


一枚目。


・家禽

・豚

・乳牛


誰かが、指で項目をなぞる。


「……肉牛は?」


短い問い。


浦木が、初めて口を開く。


「対象外です」


声は低く、平坦。


「理由は三つ。

飼料効率、再生産速度、非常時対応性」


誰も反論しない。


「平時の嗜好としては重要です。

しかし、国家として“守る”対象ではありません」


沈黙。


その判断が、誰かの人生を変えることを、

全員が理解している。


次の資料。


「飼料米の配合研究について」


研究者が説明する。


「輸入トウモロコシ依存を下げるため、

飼料米の配合比率を段階的に引き上げます」


「助成は?」


「決定です。

研究費、実証、現場試験まで一括で」


浦木が補足する。


「単なる補助ではありません。

これは“設計変更”です」


設計。


その言葉に、誰かが小さく息を吐く。


さらに一枚。


「新型飼料米のJAS規格」


資料上部、太字。


目的


・食料安全保障の強化

 非常時に主食転用可能な米の量的・質的担保


・飼料米の品質・用途の明確化

 飼料用途としての性能標準化


・補助金の合理化

 「なんでも飼料米」状態の是正


・流通の透明化

 品質・用途・転用可否の可視化


品質基準


・水分含有率:14.5%以下

・異物混入率:規定値以下

・カビ毒(DON、アフラトキシン等):上限設定

・重金属:食品基準準拠

・農薬基準:食用米と同等

・品種:指定または適格品種


沈黙。


「……JASを作る意味は?」


浦木。


「食える米にするためです」


一拍。


「食える。

ただし、主食としては扱わない」


誰かが、かすかに苦笑する。


話題が変わる。


「外国人労働者の増加について」


別の資料。


「都市部を中心に、山羊肉、羊肉の需要が増えています。

小売価格は200~300円。

輸入牛肉より、やや高い水準です」


「国内生産は?」


「ほぼゼロです。

ただし、宗教・食文化・潜在需要は高い」


後方から声。


「……不採算地の話に、つながるな」


視線が集まる。


「耕作放棄地。

草刈りだけで金がかかる」


「環境維持目的で、放牧は?」


一瞬、間。


浦木が、うなずく。


「合理的です」


「山羊、羊なら飼料要求は低い」


「獣害も減る」


「管理名目が立つ」


言葉が、静かに積み上がる。


「ただし」


浦木。


「主目的は“肉”ではありません」


視線が集まる。


「環境維持。土地保全。

結果として、食料にもなる」


誰かが、つぶやく。


「……インフラですね」


浦木は、否定しない。


会議は淡々と進む。


決まる。

決まってしまう。


司会が確認する。


「以上をもって、調整事項は確定ということで」


反対はない。


席を立つ準備。


そのとき。


「浦木さん。

現場に出すぎでは?」


浦木。


「現場が見えない設計は、崩れます」


それだけ言い、資料を閉じる。


廊下は静かだ。


浦木は歩きながら、考える。


……守る順番は、決めた。


完璧ではない。

不満も出る。


だが。


飢えない国には、なる。


それでいい。


足を止めず、

次の会議へ向かった。

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