トリアージ
会議室。
長机の上に弁当と湯飲みが並んでいる。
端に道議が座り、その隣に国会議員秘書の浦木。
向かいには、田中と同じ町の大規模農家が二人。
静かで、どこかぎこちない空気。
道議(柔らかく微笑んで)
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。
まずは……軽く召し上がりましょう。」
田中(農家仲間に、小声で)
「……今日は、正式な席だな。」
農家A
「道議さん、わざわざ恐縮です。」
道議は両手を広げる。
道議
「構える必要はありません。
本日は、代議士秘書の浦木さんが、ぜひ皆さんに直接説明したいとのことでして。」
浦木は軽く一礼し、すぐにメモ帳を開いた。
浦木
「国会議員秘書の浦木です。
率直にお話しします。
皆さんのような北海道の大規模農家は、日本農業の“上澄み”です。」
田中は眉をひそめる。
農家二人は、わずかに息を飲む。
浦木
「本州の多くの農家は高齢化が進み、正直に言えば、衰弱寸前です。
だからこそ、現場の知見を制度に反映させる必要がある。」
田中(低く)
「……上澄み、ですか。
ありがたい言い方だ。」
浦木(穏やかに続ける)
「国は、全国の農家を、北海道のような“強い農家”にしたい。
そのために、休耕地の無償提供、区画整理への介入を決断しました。
どれほど重い決断か、ご理解いただけると思います。」
農家A
「国に、そこまで踏み込めるのか。」
浦木は答えず、話を進める。
浦木
「経営規模は最低5ha、平均20ha以上を目標とします。
条件の良い農地は、意欲のある近隣農家へ。
残りは、JAの直営農場。
さらに遅れて、大手スーパーや外食産業が参入します。」
田中は腕を組む。
浦木
「働くのは農業サラリーマン。
週休2日、年収320万円、社会保障完備、退職金あり。
自営が難しい農家は、農地を持参して幹部社員として雇用されます。」
農家A
「……もう、あちこち動いてるんですか。」
浦木
「山陰、四国を中心に、複数の自治体から参加要請が来ています。」
田中
「俺たちの何が欲しい。
山陰や四国で、北海道の真似はできんぞ。」
浦木
「お願いしたいのは一つです。
“仲間の農家に伝えてほしい”。」
田中、視線を上げる。
浦木
「直営農場は、あなた方と競合しません。
米はやらせません。
指定野菜の価格保証も受けられない。」
一拍。
浦木
「北海道は、条件に合わないのです。
特区を少しだけ作ったのは、知事から
『農業の話で北海道を外すな』
と言われたからです。」
沈黙。
田中の拳が、ゆっくり握られる。
田中(独り言のように)
「……結局、俺たちは“想定外”か。」
浦木
「いえ。
新型飼料米は、あなた方が最初です。」
田中、顔を上げる。
浦木
「他地域は、実証後、三年以上遅れて始まります。
5万トン、7000ha。
非常時用途から逆算する――
日本農政では、ほぼ前例のない設計です。」
農家A
「農地の無償譲渡や区画整理の補助は?」
浦木
「無償譲渡は数年以内。
区画整理の補助は、かなり先になります。」
田中
「……つまり?」
浦木
「トリアージです。」
一同、静まる。
浦木
「急いで手当すれば助かるのが赤。
多少待てるのが黄。
後回しでいいのが緑。」
田中を見据える。
浦木
「あなた方は“緑”。
日本農業のために、理解していただけると助かります。」
田中
「俺たちは、バンソウコウで我慢しろと。」
返事はない。
田中たちは立ち上がり、部屋を出る。
残された道議と浦木。
道議
「……黒を話さなかったな。
ミリタリーなら、緑が優先だ。」
浦木
「食料で世界に打って出たいわけじゃありません。
これは、平和な国の――
安全保障です。」




