第四十話 ー友の凱旋と夢の交差点ー
そしてまた夏がやってきた。
海鷲は雨量が多いことが有名で雨の日が多いと思われがちだが、そうではない。
1回に降る量が半端ないのだ。
また雨上がりの空は普段の空よりも高く、青く見える。
8月の第一日曜日、海鷲の空はよく晴れ渡っていた。
海鷲の町は、康一たちが中学生の頃に生み出し、今や地域の恒例行事となった遊び「トレジャーハント」の熱気に包まれていた。かつての「仕掛け人」である康一たちが、運営の応援に駆けつけると、子供たちは歓喜の声を上げた。
その輪の中に、しばらく見かけなかった親友が立っていた。
東京の進学校へ通い、16歳で予備試験を突破、そしてつい先日、17歳という史上最年少記録で司法試験に合格した法規だった。
「法規……! お前、マジでやりやがったな!」
康一が驚きと喜びで肩を叩くと、法規は相変わらずの冷静な、しかし少しだけ誇らしげな表情で頷いた。
「仕組みを変えるには、まずはその中に入る必要があるからな」
その夜、5人は連れ立って康一の家に向かった。
佐藤家のリビングにはエアコンがなく、首を振る扇風機が「カタカタ」とうるさく音を立てて熱気をかき回している。
「みんな、よく来たわね! 今日はお祝いよ!」と、美里がそう言って、哲春や美咲が弾けるような笑顔で迎え入れる。
驚いたのは、普段は影のように静かな母が、この日のために自らエプロンを締め、大皿の料理を次々と運んできたことだ。
「美里さんの手料理なんて、珍しいな……」
悟が少し緊張気味に箸を取る。高級官僚を目指す悟にとって、この「助役の息子」という殻を脱ぎ捨てられる佐藤家は、唯一息ができる場所だった。
大鷲のロゴが入った扇風機が回る中、5人はそれぞれの「今」をぶつけ合った。
法規は、17歳で手にした「法の鍵」を持って放課後、有名な弁護士事務所で、修行しているという。
将来は海外も視野に入れて国際法や憲法そのものに挑む決意を語った。
順は、インターハイを逃した悔しさを、消防士という新たな目標の炎に変え海鷲に残ると熱く伝えた。
悟は、大阪の国立大学経済学部への合格を誓い、国家公務員採用総合職試験の突破をめざす。
父の「体裁」を超えた新経済を作り出すことを。
拓馬は、東京の商会の息子として、いずれ「素材」の価値を再定義する野望を。
康一は、上里建設で培っている「現場の真理」を。
「……康一君。僕たちは一度バラバラになるが、いつか必ず繋がる未来が見える」
法規が、里美が作った煮物を口に運びながら言った。
「僕が法を整え、悟君が経済を回し、拓馬君が物を動かし、順さんが命を守る。そして、康一君がそのすべてを繋ぐ『大動脈』になる。それが僕たちが作る新しい日本の『礎』だ」
賑やかな笑い声が響く中、美里は台所の隅で、冷たい麦茶を注ぎながら彼らを見守っていた。
美里の瞳には、息子・康一と、その志を共にする「海鷲の若鷲たち」への深い期待が宿っていた。
「さあ、みんな、遠慮しないで。今日は夜通し語り合っていいのよ」
康一は、それぞれが、よどみない純粋な色に変化していることに気づいた。
そして想う。みんな、いろんな壁にぶち当たったんやろな。迷いのないきれいな色にかわってきたやん)
扇風機の風が、5人の夢を乗せて、海鷲の夜の闇へと流れていった。




