第三十九話 ー交差する才能ー
哲春がパソコンでシステムエンジニアリングの才を伸ばしている。
2年後には行動心理学と数的解析を学ぶため、京帝都大学に進む事を決めている。
一方、妹の美咲もまた、兄たちに劣らぬ才気を見せていた。
海鷲高校の入試を控えた春先、美咲はリビングで何十枚ものスケッチと、書きかけの楽譜、そしてフセンだらけの参考書を前に溜息をついていた。
「……お兄ちゃん。私、自分が何になりたいんか、ようわからんなってきた」
現場から帰宅した康一が、不思議そうに美咲を見た。
「どしたん?あんなに歌が好きやったやないかれ」
「歌は好き。でも、絵を描くのもおもっしょいし、哲春兄ちゃんみたいに仕組みを考えるのもおもっしょいんさ。この先どれか一つに絞らなあかんのかな?」
そこへ、ちょうど帰宅した美里があいだに入り、静かに口を開いた。
「美咲。あんたは、自分の感性をどう使いたいん?」
美咲は視点が違う事を言われ「.......え?……かんせい?」
「あんたの歌も絵も、人の心を動かす力がある。でも、それをただの趣味で終わらせるんじゃなくて、もっといろんな意味で多くの人に届ける仕組み、つまり『経営』を学んでみたらどうなん? 自分の才能を、『自分』という、いろんな可能性を秘めた会社をどう動かすか。それを学ぶのは、今のあんたにとって一番面白い冒険になると思うんさ」
美里の言葉は、霧の中にいた美咲の視界を一気に晴らした。
「人に届ける仕組み?経営?……。私の表現で、自分の世界を動かすってこと?」
「そうやで。今の慶早義塾大学には、そういう尖った才能が集まる学部がある。まずはそこを目指してみてみるかな?」
美咲の瞳に、いつもと違う『光』が宿った。
いつもの淡い白がクッキリとシルクのような輝きのある白に変わる。
「……うーん。よっしゃ!私、海鷲高校を一位で入って、そこから東京の慶早に行くわ。経営を学んで、お兄ちゃんたちの作るもんを、私が世界中に広めたる!」
「ははっ、大きく出たな」
康一は笑いながらも、その言葉に迷いがないことを。冗談ではないことを確信していた。
佐藤家の「三本の柱」が成長していく。
数年後、佐藤家には三つの異なる力が揃うことになる。
「哲春は西、美咲は東か。……ばらけさせる礎、やな」
康一は、かつて家康が言った言葉を噛み締めていた。
「俺は海鷲で手が届く範囲は守る。お前らは外で暴れてこい。……でも、正月には帰ってこいよ」
テレビもエアコンもない家で、康一は誇らしげに二人を見つめていた。海鷲という小さな町から始まった物語は、今や日本の東西を繋ぐ少しだけ大きな物語へと広がり始めていた。




