第三十七話 ー社長の想いー
15年前、後輩・雅起を重機事故で亡くした鎌田。
雅起の遺体は、散乱したゴミや空き缶が転がるキャビンの中で分断されていた。
「道具を汚す奴は、仲間を殺す」
鎌田が資材管理課長として鬼のように君臨し、康一や誠に掃除を徹底させるのは、二度とあんな惨い現場を見たくないという、血を吐くような祈りだった。
康一の中学時代の先生と同級生であり、優秀な成績で大学陸上への道を歩んだ松井。大学3年の時には次の山の神だともてはやされたていた。しかし帰省中、歩道をランニング中に飲酒運転の車に後ろから撥ねられ、両足の太もも裏側にある靭帯と神経の一部を損傷し、アスリートとしての脚を失った。
かねてから地元のスポーツ振興と若手の育成に資材を投じ力を入れていた社長は当然、松井の事も良く知っていた。
「避けようのない不条理」に直面しまるで人生を絶望したかのような松井に対し、社長は彼を救い上げた。
松井は社長に拾われて良かったと思っている。すでに8年になる。
松井は今、現場監督として、事故の経験からくる「安全への異常なまでの鋭敏さ」を武器に、若手を導いている。
そして社長の活動に影響を受けて地元のスポーツ少年団で、指導の補佐をしている。
『走れなくてもできることはあるし、大事な事を伝える事もできる』
社長は、この二人を支え、雅起の息子である誠を我が子のように育ててきた。剣道の師範として、理不尽な運命に竹刀一本で立ち向かうような厳格さを持ちながらも、当然のように守ってきた。
雅起への償い、松井への支援、そして誠への継承。堂前にとっての上里建設は、単なる会社ではなく、傷ついた者たちが再び立ち上がるための「聖域」でもあった。
そして社長の想いを汲み取りそれぞれが感じて動く、この安全への執着心が地域の安全と暮らしを支えている事を、知っている人は多くない。
それはこの会社に勤めるものにとって人に宣伝するものではなく、『当たり前』なのだからだ。
今日も上里建設の青い看板は、丁寧に磨きあげられ、来る人を出迎えている。




