第二十四話 ー世界の中心【影】ー
動き出した子どもたちに、最初の“影”が差す
夕刊の配達を終えた帰り道。
康一は、いつもより少し重たい空気を感じていた。
翌日、学校の帰りに、町の掲示板の前で人だかりができていた。
ざわつく声が耳に入る。
「なんやこれ……?」
悟が貼り紙を指差した。
『町内での無断の行政活動まがいの行為について』
『誤解を招く行動は慎むように』
そこには、海鷲市役所の名前がしっかりと印字されていた。
順が眉をひそめる。
「これ……あしらのこと、やんな?」
拓馬が舌打ちした。
「誰なんやろ、そういうふうに捉えるんは。別に悪いことしとらんのに」
法規は貼り紙をじっと見つめ、静かに言った。
「……“行政活動まがい”という言葉がポイントだね。
彼らは、僕たちが『役所の権限を侵す』可能性を恐れている」
康一は、胸の奥がざわついた。
(なんでや……町のために考えとるだけやのに)
そのとき、背後から低い声がした。
「お前ら、最近なんか妙なことしとるらしいな」
振り返ると、町内会の古株で、口うるさいことで有名な大杉が腕を組んで立っていた。
(小さくて雨に濡れたコンクリートのような灰色)それが康一の感じる印象だ。
「役所の場所を勝手に動かす?子どもの遊びで町をかき回すんじゃない。大人には大人の事情があるんや」
順が反射的に言い返す。
「遊びちゃあうわ! ちゃんと考えて――」
「順、落ち着け」
康一が制した。
大杉は鼻で笑った。
「新聞配達のガキが、町づくり?そんなもん、できるわけないやろ。余計なことせんと、勉強でもしとれ」
その言葉は、康一の胸に鋭く刺さった。
(……できるわけない、か)
黄金色の光が、少しだけ揺らいだ。
(あかん、あかん。日吉に笑われるなぁ。やらんとおって失敗する前にあきらめるなって)
しかし、ここからが“本当の物語”の始まり
大杉の言葉は、子どもたちの心に火をつける。
悟は拳を握りしめた。
「……悔しいけど、僕らの動きが“脅威”に見えたってことやな。つまり、僕らのやってることは意味がある」
法規も頷く。
「大人の論理にぶつかった以上、ここからは“戦略”が必要だ。ただの遊びじゃなく、正面から議論できる形にしよう」
順は悔し涙を拭いながら言った。
「あしら負けんで。海鷲のこと考えとるのは、大人らだけやないんやから」
拓馬はニヤリと笑った。
「そしたら、次のステップやな。“ばらいて”考えるのは、役所だけじゃないじょ。大人の固定観念もばらいたるかい?」
そして康一。
胸の奥で揺らいでいた黄金色は、
再び強く、濃く、輝きを取り戻していく。
(家康のおじちゃん、あんたなら、こんなときどうするんやろな)
康一は、心がおさまり落ち着いてゆっくりと仲間たちを見渡した。
「……やるじょ。海鷲の“本当の姿”を見つけるのうは、俺らじゃ」
5人の視線が交わり、静かに燃え上がった。
夏の到来を示す青空に、真っ白な入道雲がたちのぼり、柔らかく笑っているように見えた。




