第二話 ― 三歳、セミとツンデレ女王 ―
次は・・・あのかた・・・の登場です。
海鷲市の夏は、蝉の声が空気を震わせるほど賑やかだ。
三歳になった康一は、今日も例にもれず庭の木にしがみつき、全力で蝉を追いかけていた。
汗だくになりながらも、彼の周りにはいつものように、淡い桃色のオーラがふわふわと揺れている。
「まてぇ〜! あとちょっとや!」
夢中になりすぎて、足元のトタン板に気づかなかった。
ガリッ。
右腕に走る鋭い痛み。次の瞬間、視界が白く弾けた。
――また、音のない場所。
康一は、ふわりと柔らかい草の上に倒れ込んでいた。
目の前には、黒髪を高く結い、金色の飾りを揺らす少女。
年の頃は自分よりも少し上だと感じる。小柄だけど、その瞳には大人びた強さと、どこか拗ねたような光が宿っている。
「……おぬし、誰じゃ?」
ツンとした声。
けれど康一には、その周りに広がる真紅のオーラが、どこか照れくさそうに揺れているのが見えた。
「こういち。セミとっとったら、ここ来た」
「ふん。まったく、どんくさいやつじゃのう。……べ、別に心配したわけではないぞ」
少女はそっぽを向きながらも、康一の腕をそっと覗き込む。
「ひみこ。わらわは卑弥呼じゃ。……その、暇なら遊んでやってもよいぞ?」
康一は満面の笑みで頷いた。
それから三日間、二人は一緒に走り回り、木の実を集め、川で石を投げ、時には卑弥呼が康一に古代の言葉を教えたりもした。
卑弥呼は終始ツンツンしていたが、康一が笑うたびに、彼女のオーラは柔らかい桜色に変わっていった。
そして三日目の夜。
焚き火の前で、卑弥呼は珍しく真剣な顔をして康一を見つめた。
「……おぬし、あのおっさんに言われたこと、忘れておらんじゃろうな?」
「おっさん?」
「イザナギじゃ。あやつが言ったこと、ちゃんと成し遂げるんじゃぞ。おぬしは……この国の未来に必要な子じゃからな」
康一は(誰かな?黄金色の人の事かな?と思い)ぽかんとしたまま、こくりと頷いた。
その瞬間、世界がぐにゃりと歪む。
――気がつくと、家の縁側だった。
「こういち! あんた大丈夫かいな!」
「おおお、よう戻ってきたな……血が止まってきてよかったわい……」
母と祖父が泣きそうな顔で覗き込んでいる。
右腕にはしっかりと包帯が巻かれていた。
「……ああ、また変な夢見たなぁ」
康一はぼんやりと空を見上げた。
夏の青空は、今日も泣きたくなるほど澄んでいた。
第2話描けました。宜しくお願いします。




