第十三話 小学校の先生目線──“あの子たちは、気づかぬうちに強くなっていく”
朝の教室は、いつもと変わらないざわめきに満ちている。
けれど、私は知っている。
このクラスには、静かに、しかし確かに“物語”が流れている。
特に──
康一、順、悟、拓馬。
この四人の周りには、いつも風が吹いているように感じる。
■康一──“気づかぬ強さ”を持つ子
康一は、どこか不思議な子だ。
いじめられても気づかない。
からかわれても笑って返す。
怒らない。
泣かない。
でも、弱いわけではない。
むしろ、誰よりも折れない芯を持っている。
私は教師として、何度も彼の様子を見に行った。
「康一、大丈夫か?」
「大丈夫やで先生。みんな優しいし」
その言葉に嘘はない。
彼は本当にそう思っている。
だからこそ、周りの子どもたちが変わっていく。
康一の“強さ”は、周囲の心を静かに揺らす力がある。
■順──“泣かない子”の本当の姿
順は気が強い。
口も悪い。
誰かが困っていれば真っ先に飛んでいく。
私は最初、彼女を“問題児”だと思っていた。
でも違った。
順は、誰よりも優しい子だった。
家庭訪問で、お母さんが一人で働きながら順を育てていると知った。
「順は、私の代わりに強くなろうとしてるんです」
その言葉を聞いた時、胸が痛くなった。
順は、“泣かない”ことで自分を守っている。
だから、あの日──
康一の前で初めて泣いたと聞いた時、私は思わず空を見上げた。
順が泣けたのは、康一が“安心できる相手”だからだ。
■悟──“期待されない天才”
悟は、授業中は眠そうにしているのに、テストはいつも満点。
私は何度も声をかけた。
「悟、やればできるのに、どうしてやらないんだ?」
悟は笑って答えた。
「別に……やる必要ないし」
でも、私は知っている。
悟の家は静かすぎる。
父親は厳格で、“普通でいろ”と悟に言い続けている。
悟は、期待されないことに慣れすぎている。
だからこそ、康一に興味を持ったのだろう。
康一は、悟の“本気”を引き出す数少ない存在だ。
■拓馬──“勝ち続けなければならない子”
拓馬は、最初は典型的ないじめっ子だった。
でも、私は彼の家庭を知っている。
父親は町の商会の社長。
厳しく、「勝て」「負けるな」と言い続ける人だ。
拓馬は、負けることを許されない子だった。
だから、康一に勝てないことが許せなかった。
でも──康一に“本気で負けた”あの日、拓馬は変わった。
泣きながら、「負けてもええんかな……」と呟いたと聞いた時、私は胸が熱くなった。
負けることを受け入れた子は、強くなる。
■四人の輪──教師として見守るしかない奇跡
私は教師だ。
子どもたちを導く立場にある。
でも、この四人を見ていると、時々思う。
彼らは、私の知らないところで成長していく。
康一の光。
順の強さ。
悟の知恵。
拓馬の情熱。
それぞれが欠けていて、それぞれが補い合っている。
私はただ、その輪が壊れないように、そっと見守るだけだ。
■そして──康一の“夢”の話
康一は時々、不思議な夢を見ると言う。
「先生、また変な夢見たんさ」
「どんな夢だ?」
「なんか……戦の中におってな。エイセイって人がおって……助けたったんや」
私は笑った。
「康一、歴史の勉強しすぎじゃないか?」
「夢やと思うんやけどなぁ……なんか、ほんまみたいやった」
私はその時、康一の目の奥に“黄金色の光”が揺れた気がした。
あの子は、きっと普通の子ではない。
でも──
それでいい。
子どもたちは皆、それぞれの物語を持っている。
康一の物語は、きっと誰よりも大きく、誰よりも優しい。
私は教師として、その物語の始まりを見られることを誇りに思う。
窓の外をそっと見れば、今日も校庭のざわめきは、明るい色を醸し出していた。




