小さな球体
アヤがラズレックに得た情報を話す。
「戦が近いのは確からしい。この都市でも戦の準備を始めている。
ただ、反対派もかなり抵抗しているらしい。ヴァル=ノーデン自治領との貿易で儲けている貴族も多く、反対しているそうだ。そのあたりの商売をうまくやっているのが、ルドルフ・ミューレンということだ。
戦がいつ始まるかは、皇帝次第というところだそうだ。
この都市はヴァル=ノーデン自治領に近い。戦が始まれば前線に出なければならない。今までの小競り合いでも、すでに前線に出ている。
この孤児院の子どもたちは、戦争で親を亡くした者がほとんどらしい。
次の戦争が始まれば、街の者も自分の身を守るので精一杯になり、孤児院への援助も減るらしい。
シスターは、自ら働いて子どもたちの食事代を得ているそうだ。
宿屋にしているのも、収入を得るための苦肉の策らしいぞ」
次の日、前日に買っておいたパンを食べたあと、アヤとジェスタは買い出しに出た。
ラズレックとカティア、エイルーンは留守番となった。
子どもたちが、また顔を出す。
ラズレックは子どもたちの部屋に向かった。カティアとエイルーンも続く。
ラズレックは、防寒のために空気の逃げ道を残しながら、石壁の隙間を埋めていった。
その様子を見て、子どもたちは「すごい、すごい」とはしゃいでいる。
ラズレックは留守番の間、子どもたちの望むままに内装を整えていった。
「ベッドを直して」
と言われたが、
「私は木は自由に扱えぬ。石や岩、土なら動かせるが」
と答えると、
「じゃあ、こっち来て」
子どもが案内した先には、女神像があった。
「シスターが、いつも祈っている像なんだけど、足が壊れてるんだ。
それを直してほしいんだ」
ラズレックは像を見た。確かに足が壊れている。
その像に手をかけると、すっと元の形に戻った。
子どもたちの顔がぱっと明るくなる。
カティアが、つぶやくように言った。
「子どもたちは明るいね。ラズレック。
私ね、火の魔術が使えると気づいた時から、母に怖がられるようになったの。
父も、どこか距離を取るようになってね。それが寂しかった。
きっと、私を魔術の塾にやるのも、身近に置きたくなかったからだと思う。
それでも、父も母もいて、家があって、お金があって……今はエイルーンもいる」
ラズレックは言った。
「そうだな。カティアはよくやっている。
父や母というものは、私にはわからぬ。
親にとっての子どもというものも、この子らも、カティアも、私にはわからないことばかりだ。
私は、様々な世紀の人を見てきた。
だが、誰一人わからぬ。
わかったと思っても、裏切られる。
我らは、未来を真っすぐ歩めるほど器用ではないのだ」
そのとき、アヤとジェスタ、そしてシスターが帰ってきた。
ジェスタが言う。
「なんだか楽しそうね。こんなときに、いい魔術があるわ」
ジェスタの手のひらに、シャボン玉のような球体が現れる。
その中で、小さな花火が開いた。
ゆっくりと消えていく。
ジェスタが手を動かすと、光が散った。
「それっ」
両手を広げると、小さな光の球が天井へと浮かび上がる。
くるりと回ると、無数の小さな花火が部屋中に広がった。
ひとつひとつが、
消えて、灯って、消えて、灯って――
カティアが言った。
「美しい」




