ドミナス町
エルディア峰を越えた。木々の数は減り、先に町が見える。
商団の中から、
「ドミナスが見える。やっと、まともな物が食えるな」
という声が上がった。
商団の雰囲気が、ぱっと明るくなった。
やがて商団は休憩に入る。
アヤがジェスタに尋ねる。
「ドミナスって、どんな町なの?」
ジェスタは顎に手を当てながら、少し考えてから答えた。
「行ったことはないのだけどね。聞いた話だと、ただの田舎町らしいわ。特別なものがあるわけじゃないって。でも――」
少し笑って続ける。
「エルディア峰を越えた人にとっては、印象に残る町になるらしいの。……まあ、これだけ登りを歩いてきたあとなら、まともな食事とまともなベッドがあるだけで、十分特別よね」
アヤは皆に向かって言った。
「さて、町に入る前に打ち合わせだ。もともと目立つのに、エイルーンが加わってさらに目立つ」
「ラズレックは巨岩族、私はそれに興味を持った探索者で通す。入れればよし、無理なら別ルートで入る」
「ジェスタとカティアは、護衛対象とその召使い。ジェスタはカティアの付き人ってことにしよう」
ジェスタが腕を組んで聞く。
「で、エイルーンは?」
「山からついてきた、で通すしかないな」
とアヤ。
「知っている者がいるかもしれないしな。……ドミナスで雪豹が問題を起こしていないことを祈るしかない」
カティアはエイルーンの頭を撫でながら言った。
「入れなかったら、外で待ってる」
アヤは首を振る。
「無理だ。エイルーンの食事量を考えろ。食料の確保が先だ」
「……はい」
カティアは小さくうなずいた。
ドミナスに着くと、城壁も門もなかった。
それまでの心配は、すべて杞憂だった――が、
町は別の意味で騒がしかった。
熊が出たらしく、町は軽い戦闘状態になっていた。
人々は家に籠り、外には緊張が走っている。
到着したばかりの商団は、そのまま熊退治に駆り出された。
傭兵の中に銃使いがおり、戦いは意外にもあっさり終わった。
結果――商団は歓迎された。
身元確認どころではなかった。
エイルーンも、あっさり受け入れられた。
村の年寄りが興味深そうに言う。
「雪豹かい。山で見たって話はあったが、こんな近くで見るのは初めてだな。大きな猫みたいなもんだなあ」
村人が触ろうとした瞬間、エイルーンが低く唸り威嚇する。
カティアが慌てて止めた。
「触らないでください。危ないです。何もしなければ大丈夫なので」
ジェスタも肩をすくめる。
「そうよ。この子、無愛想なのよ。私も触らせてもらえないし」
「私は触れるぞ」とアヤ。
「ラズレックも触れるぞ」と付け加える。
ジェスタは苦笑した。
「ラズレックの場合は違うでしょ。あれは……怖がってるのよ」
アヤは周囲を見回した。
「それにしても、男手が少ないな。この辺なら熊は珍しくないだろう」
村人が答える。
「戦争に取られたのさ」
「近いうちに戦になるらしい。各地から兵の割り当てがあってな……こんな田舎でも人を出さなきゃならん」
「出稼ぎに出てるやつもいるし、この有様だよ」
ラズレックが静かに言った。
「その戦を止めに、我々は首都へ向かっている」
村人は笑った。
「巨岩族は冗談がうまいな」
「いや、本気だが」
ラズレックが答えると、
村人たちはさらに笑った。
「わかった、わかった。戦争を止めてくれ。さあ、飲め、飲め」
「私は飲めないのだが」
ラズレックが言うと、
村人たちは顔を見合わせ、また笑い合った。




