雪豹
雪豹は、何事もないように前に進もうとする。周りが歩かないので、やむなく止まった。
ジェスタが
「ラズレック。前に進んでいいわよ。この霧で前を見失うことは、商団の中では許されない行為よ。この雪豹には覚えがあるの。大丈夫だから進んで」
と言うと、ラズレックは「わかった」と言って前に進んだ。
雪豹も進みだし、周りの者も歩き出した。
アヤも歩きながら考える。
(神々しいのだろう。白い霧の中の雪豹。なぜか誰もが、恐ろしい生き物がこんな近くにいるのに怖がらない。騒ぎもしない。いや、むしろ一緒に歩いていることを誇らしく感じている)
ジェスタが、ともに歩く雪豹に向かって
「お前だね。この霧を出しているのは」
と語りかける。
カティアがジェスタに
「魔術師は動物と話せるの?」
と聞くと、
「まさか、動物とは話せないよ。ただ、魔術の気配がするからね。その雪豹は」
アヤが
「雪豹が、魔術師に操られているのか」
と聞くと、
「魔術の気配は雪豹だけ。そこから操るための魔術なんてない。その雪豹自体が魔術をまとっているの」
ラズレックが歩みながら
「さっき、覚えがあると言っていたが」
「昔ね。似た気配を持つフクロウを知っているの。友達だったわ。そのフクロウと同じくらい気高いと感じたの。この子、きっと恐ろしく賢いわよ」
カティアが
「言葉を話したりして」
「そこまで異質ではないわよ。雪豹は雪豹。そもそも言葉を発する器官もないしね」
とジェスタが言うと、
アヤが
「なぜ今、ここに現れたのか」
ジェスタは歩く雪豹を見ながら
「居場所を探してたんじゃない? 雪豹の中でも浮いてたでしょうし、私たちの異質さを感じて引き寄せられて、カティアの横にいることでバランスが取れると感じたんじゃないかしら」
カティアが
「触っていいのかな」
ジェスタが
「野生の動物よ。向こうから寄ってくるまでは触ってはだめ。怒らせたら、その大きさならカティアは一瞬で首を食いちぎられるわよ。――寄ってくるか、去っていくか。もうしばらく一緒に歩きましょう」
と言った。
エルディア峰の頂上で、商団は休憩となった。
雪豹は商団と距離を取り、座っている。
カティアは雪豹から目を離せなかった。
食事のパンを半分に割り、その半分を雪豹との中間の位置に置き、また商団の場所に戻った。
雪豹はゆっくりとパンのところまで歩き、パンを食べた。
そしてまた距離を取った。
商団の先頭が立ち上がった。
雪豹も立ち上がる。距離は取ったままだ。
商団は進みだした。
雪豹とラズレックたちの距離は次第に離れていく。
アヤが
「去ったか」
と言うと、
カティアは立ち止まり、雪豹へ手を伸ばし、大声で叫んだ。
「おいで! 私が守ってあげる!」
雪豹は動かない。
「来なさい!――エイルーン! あなたの名前よ!」
雪豹はカティアに向かって歩き出した。
そして、カティアの胸に頭をこすりつけた。
ジェスタは笑って
「あら、名前つけちゃった。カティア、やるわね。
でも、これであなたからその子は離れないわよ。良くも悪くもね」




