商人の情報
カティアは目を覚ました。
目の前では、アヤが食事を作っていた。
「みんな、朝寝坊さ。カティア、ジェスタを起こしてくれないか。」
カティアはジェスタの肩を揺すった。
ジェスタはゆっくりと目を開け、周囲を見回す。
「昨日のこそ泥二人はいないね。」
ラズレックが答える。
「今朝、逃がしてやった。商団の一番後ろにいるはずだ。」
「商団からは逃げなかったのね。」
アヤが言う。
「これから山深いエルディア峰に入るからね。案内人がいないと迷う。商団を離れることはないさ。」
アヤは三人に聞かせるように続けた。
「エルディア峰は見た目は普通の山で、道もしっかりしている。だが、ここは深い霧が出るらしい。すると道が、途端にわからなくなる。あまりにタイミングよく霧が出るから、森の魔術師が住んでいて旅人を迷わせている、なんて話もある場所だ。」
ジェスタが笑う。
「アヤ、詳しいね。来たことあるの?」
「昨日、商人たちが話していたのさ。目的は忘れてないさ。情報収集に手抜かりはない。」
ラズレックが問いかける。
「戦争は、どんな様子だ。」
アヤは食事を取りながら答える。
「どうやら戦争は、直前で賛成派と反対派が激しく対立して、まだ動いていないようだ。」
「この戦争は、なぜ起こったのだ。」
「もともとヴァル=ノーデン自治領は帝国の一部だったらしい。帝国の混乱期に独立した。だから資源の多い自治領を、帝国はずっと狙っている。小競り合いは昔からあったようだ。」
アヤは続ける。
「最近、国境付近のティル河の氾濫が収まってな。穀物地帯も広がっているらしい。それで魅力が増した。
本音は、自治領がこれ以上力を持つと困るってことだろうな。滅ぼすつもりはないが、痛い目は見せたい――そんなところだ。」
「そんな理由で戦争を起こすのか。」
「国ってのは、そういうものさ。」
アヤは少し笑った。
「面白いことに、国境の貴族たちは大反対しているらしい。ラズレックのおかげかもな。」
カティアは食事を取りながら、その意味がわからなかった。
まさか当事者が目の前にいるとは、想像もしていなかった。
商団の先頭が立ち上がった。出発の合図だった。
歩き出して間もなく、白い霧が現れた。
「もう霧が出てきた。魔術師でもいるのかしら。」
ジェスタがつぶやく。
商団の列が動き出す。
「前の人を見失っちゃだめよ。」
アヤがカティアに言った。
カティアは大きなラズレックの背中を見つめながら歩いた。
しばらく進むと、ラズレックが振り返る。
「見事だ。まるで気づかなかった。」
カティアには何を言っているのかわからなかった。
ジェスタが静かにカティアの横を指さす。
そこには――
カティアのすぐ隣を、彼女より一回り大きい雪豹が歩いていた。
まるで最初からそこにいたかのように。
アヤも、霧の中から突然現れたその存在に息をのんだ。




