静かな夜
商団は順調に進み、三日目に入った。
「カティアは、よくもまあこの状況で愚痴を言わないのね。いっしょに嘆こうよ」
とジェスタが言うと、アヤが返す。
「うるさいよ、ジェスタ。荷物持ってもらってるんだから贅沢言うな」
カティアは、二日目からジェスタの荷を少し分けて持つことになっていた。
カティアはあまり話をしなかった。
不愛想というわけではなく、ただ黙って歩き、文句も言わない辛抱強い子だった。
しかし初めての旅で張りつめていた気も、三日目には限界が来ていた。
食事をとりながら、いつの間にか眠ってしまっている。
アヤが言う。
「カティアは限界だな」
ジェスタはすでに横になって眠っていた。
「ラズレック。二人を見ててくれ。私は情報を拾ってくる」
そう言って、焼いた肉と酒を持ち、別のグループへと入っていった。
ラズレックに話しかけてくる男がいた。
「あんた、首都に何の用があるんで」
「戦を止めに行くのだ」
ラズレックがそう答えると、
「そいつはすごいな」
男は大笑いした。
――その瞬間、ラズレックの姿が消えた。
次の瞬間。
眠るカティアの横でリュックを掴んだ男の背後に、ラズレックは立っていた。
「その荷を、どこへ持っていくのだ」
男は凍りついた。
(さっきまで前にいたはずだ……なぜ後ろにいる)
「その荷を、どこへ持っていくのだ」
ラズレックはもう一度問う。
「い、いや……盗られないように場所を変えようと思ってな……へへ」
「そうか。では、この荷を見張ってもらおう」
男は、自分の体が地面に沈んでいくのを感じた。
胸まで土に埋まり、動けなくなる。
ラズレックは、先ほど話しかけてきた男に目を向けた。
「お前はどうしてくれようか……おとり役だな」
その男も、腰のあたりまで地面に沈んでいた。
「その姿で……魔術師だったとはな」
「似たようなものだ」
「では、お前も埋まれ」
ラズレックが言うと、男の体も胸まで沈んだ。
「助けてくれ!」
二人は叫ぶ。
「朝になったら出す」
ラズレックがそう言うと、目を覚ましたジェスタがぼそりと呟いた。
「うるさいわね。頭まで埋めていいわよ」
二人はぴたりと黙った。
さすがに騒ぎになり、カティアも目を覚ました。
目の前に、男が地面に埋まっている光景を見て、小さな悲鳴をあげる。
アヤが戻ってきた。
「……やっぱりラズレックか」
ため息をつきながら言う。
「ラズレック、やりすぎだ。これじゃ周りが怖がる。埋めるなら膝までだ」
ラズレックは地面を持ち上げ、男たちを膝までの埋まりに戻した。
男たちは必死に土をかき分けるが、固くて爪が割れてしまう。
場の空気は落ち着かないままだった。
ジェスタが立ち上がる。
「しょうがないわね。お詫びに子守歌でも歌ってあげるわ」
「ちょっと待て――」
アヤが止めるより早く、ジェスタは歌い始めた。
夜の草原に、静かな歌声が広がる。
それを聞いた者たちは――美しい音とともに
人も、獣も――次々と眠りに落ちていった。
ラズレックが言う。
「すごいものだ……皆眠ってしまった。
カティアはともかく、眠る魔術とわかっていたアヤまで」
「そうよ。私の声は脳に直接届くの。耳をふさごうとも関係ないわ」
ジェスタは微笑む。
「でも、ラズレック。あなたは眠らないのね」
「そうだな」
「たぶん、このあたり一帯は眠ってるわ。
私も寝る。何かあったら起こして。目覚めの歌を歌うから」
「わかった」
ラズレックは、ひとり静かな夜を迎えた。




