カティナの魔術
ノーディア帝国に入った三人は、首都を目指して歩いていた。
帝国は広く、今いる街からいくつの街を経て辿り着くのか見当もつかない。
アヤが言う。
「ラズレック。やはり、できるだけ大きい商団の後ろをついて行くのがいいだろう。道も不慣れだし、危険も少ない。戦争の情報も集めやすい」
ラズレックも頷く。
ジェスタは肩をすくめて笑った。
「せっかくの旅なのに、名所を巡れないなんて残念ね」
「帰りはゆっくり巡ろう。今は戦争を回避する旅だ。急ぐぞ」
アヤの言葉に、ジェスタも「わかったわ」と応えた。
アヤは商団を探した。
首都行きの商団はいくつかあったが、護衛の多い商団が必ずしも安全とは限らない。前回、それを嫌というほど思い知らされている。
今回は傭兵として参加するつもりだった。
どうせ襲われれば戦うことになる。ならば、食事と報酬が保証される立場のほうが良い。
女戦士二人と女魔術師という組み合わせは珍しい。
娘や家族を同行させる商家なら、需要はあるはずだと、傭兵の紹介所を回って情報を集めていた。
意外にも、仕事はすぐに見つかった。
首都の魔術師の塾へ娘を送る商家があり、できれば女性の護衛を求めているという。
「というわけで、今から顔合わせだ。ラズレック、ジェスタ、準備してくれ」
「準備もなにも、鞄一つでしょう」
ジェスタは軽く笑いながら立ち上がる。
ラズレックも帽子とマントを身に着け、無言で立ち上がった。
商家に着くと、アヤが書類を渡し、三人は広間へ通された。
屋敷の規模はフォン・ドレイクの屋敷より小さいが、机や椅子には明らかに上質な木材が使われている。
「ガルド・ヴェスナーと申します。こちらが娘のカティアです」
アヤは立ち上がり、ガルドと握手を交わした。
「娘の護衛ですので、本人にも会わせたうえでお願いしたく思いまして。
私の家系で初めて魔術を使える者が出ました。これは学ばせねばと、首都へ送ることにしたのです」
「年齢は?」とアヤ。
「十六です」
ジェスタが口を挟む。
「魔術の系統は?」
「『火』です。ほら、見せてごらん」
カティアは手を伸ばし、人差し指の上に小さな火を灯した。
ジェスタが微笑む。
「あら、わたしと一緒ね」
同じように指先に火を灯す。
その火は青く、カティアのものより大きかった。
アヤは内心で驚く。
(ジェスタ、火も使えるのか)
「そちらの戦士の方は?」
ラズレックが立ち上がり、ガルドに手を差し出す。
ガルドはその巨体に驚き、握手した瞬間、その感触にさらに驚いた。
アヤが紹介する。
「名はラズレック。巨岩族です。体は女性の形ですが性別はありません。剣も槍も矢も通じません。最強の兵です」
そのとき、カティアが初めて口を開いた。
「お父様。私、この方々と首都に参ります」




