皇帝と魔女
「ドミトリアン・ノーディア。あら、あの子、皇帝になったの」
と、ジェスタが言った。
アヤは即座に振り返った。
そして、嘘をついていない様子を見て、ため息をつき、天井を見上げた。
ジェスタは鼻歌を歌いながら、ミューレンとラズレックの近くへ歩いていく。
アヤも、頭に手を置きながら近づいていった。
ジェスタがラズレックに言う。
「ドミトリアン・ノーディアに会いに行くの?
ラズレック、私も連れて行ってよ。
浅からぬ縁がある子なのよ」
ミューレンが言った。
「お前たちは、大国の皇帝に簡単に会えると思っているのか」
するとラズレックは答えた。
「誰かが会うことを妨害するからだ。
だが、どんな妨害も、私は許さない。
現に本来なら、ミューレン、お前にも簡単には会えないのではないか。
いつもそうだ。
お前たちは勝手に距離を『作る』のだ。
私はこの国のクラウディアにも会うのに、時間はかからなかった。
皇帝と言われようと、一人の人間なら会える」
ミューレンは、
「クラウディア様に会っただと……。
お前のような力があれば、世界は簡単だな」
と、苦笑した。
ジェスタがラズレックに言う。
「一人で行ってはだめよ。手伝ってあげるから」
ラズレックは首を振った。
「今回のことで、私は無事でも、
アヤやジェスタが攻撃されれば、私には何もできぬ。
一人がよい」
アヤが口を開いた。
「わかった。
だが、直前までは連れて行ってくれ。
探索者として、ラズレックだけでなく、
ジェスタも目を離せなくなった。
ラズレック、ジェスタは連れていけ。
私は直前で邪魔にならないようにする」
ラズレックは言う。
「ジェスタが、いくら魔術を使えるからとはいえ、危険だ」
アヤはジェスタを見ながら続けた。
「ラズレック。
ジェスタの歌は魔術だ。
私たちが、ここまで何の抵抗もなく来られたのは、
衛兵たちがジェスタの歌声を聞き、
立ったまま眠りについたからだ。
ミューレンの後ろの執事も立っているが、眠っている。
誰でも意図して眠らせることができる強力な魔術。
この異質な魔術を使う者の名を、私は聞いたことがある。
――『魔女セイレーン』」
ジェスタは微笑んでいる。
アヤはさらに続けた。
「ジェスタは、皇帝ドミトリアン・ノーディアを知っているらしい。
そして、ドミトリアン・ノーディアが
皇帝の名を得た功績として挙げられるのが、
『魔女セイレーンの討伐』だという」
ジェスタは、人差し指を口元に立て、
微笑み続けていた。




