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ラズレックの憤慨

「ミューレン。そこにいろ」


その声は、部屋中に響くラズレックの声だった。

頭部を水に覆われた者の声ではなかった。


「動くなよ、ミューレン。動けば串刺しにしてくれよう」


ラズレックはミューレンの方へ歩き出す。


ミューレンは驚いていた。

ラズレックは頭部を覆われている。

人であれば呼吸すらできない状況で、歩いて近づいてくるなどあり得ない。


「お前は……人ではないのか」


ミューレンは立ち上がり、


「化け物め! 近づくな!」


と杖をラズレックへ向けた。


ラズレックの全身は一瞬のうちに、巨大な水の渦に包まれた。


「はじけ飛べ、化け物!」


しかし、ラズレックは水の渦の中で立っていた。

巻き込まれることなく、一歩ごとに足を床と同化させていく。


水の勢いを無視し、ミューレンへと歩みを進める。


「ミューレン。動いたな」


ラズレックが右腕を、ゆっくりとミューレンに向けた。


ザクッ。


ミューレンが杖を持っていた腕に、石畳の床から鋭い棘が現れ、貫いた。


ミューレンは叫び声を必死に飲み込んだ。


「――なぜ、そちらの部屋で魔術の『起こり』を作り出せたか、知りたいものだ」


ラズレックは続ける。


「私は人ではない。魔術も使えない。だが、『人でなし』ではないぞ」


ラズレックがミューレンに手を伸ばそうとした、その時。

二人の間に執事が割って入った。


「お待ちくだされ。ミューレン様がフォースクリスタを求めたのは、この街を救うためなのです」


ラズレックは執事をどかそうとするが、執事は頑として動かない。


「この国-ヴァル=ノーデン自治領は、戦争が近いのです。

そして、この国の軍事力では勝てない。

だからこそ、フォースクリスタを貢ぐことで、この街を救おうとしておられるのです。


あなた様は、フォースクリスタを得るために犠牲が出たことを怒っておられる。

しかし、それは多くの命を救うために必要だったのです」


ラズレックは低く言った。


「必要だと?

あの子どもたちに、何の罪があった。

あまりにも不憫な死にざまだ。


ふざけるな。

お前たちは、自分たちの恐怖から、あの商団の家族を殺したのだ」


ミューレンは苦笑し、


「そうだ。我々は怖いのだ。この街だけ助かればよい。

この戦争を逃れられるのであれば、犠牲はいとわない。

お前も同じだよ、化け物め」


ラズレックは一拍置いて言った。


「分かった。

お前の言う戦争を、私が止められたなら――お前はどうする」


ミューレンは大笑いした。


「非を認め、犠牲になった家族を弔うことに、

時間も金も、一生を費やそう。

やれるものなら、やってみろ」


ラズレックは静かに尋ねた。


「戦争の相手は、どこだ」


ミューレンは笑みを浮かべたまま答えた。


「ノーディア帝国――

皇帝ドミトリアン・ノーディアだ」




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