ルドルフ・ミューレン
「主は、こちらです。お会いになるそうです」
最初に会った執事だった。
ラズレックは執事の後について行った。
通された部屋は奇妙な造りだった。
大きさの違う二つの部屋が、無理に合わさったような空間だ。
奥の小さな部屋に、一人の男が座っていた。
「私が、ルドルフ・ミューレンだ」
ラズレックは左腕に抱えていた男を下ろした。
男は、服の合わせ目から、何重にも布で包まれた「フォースクリスタ」を取り出し、証書も差し出した。
「無事、フォースクリスタを運んでまいりました」
執事が証書を確認する。
「ミューレン様、この証書は本物です」
「そうか。ならば、褒美を与えねばな」
男の顔が、ほっと緩んだ。
「褒美に――お前の持ってきたフォースクリスタを、そのまま持って帰れ」
男の顔が引きつった。
「ま、まさか……これは、至宝の『フォースクリスタ』ではなく……」
ミューレンは静かに言った。
「違う。しかし、宝には違いない。
一年は遊んで暮らせる程度の宝石ではあるがな」
ラズレックはミューレンを見据えた。
「我々は、その宝石のために盗賊に襲われた。多くの者が死んだ」
ミューレンは淡々と答える。
「黒狼の盗賊団に狙われ、壊滅させたと聞いている。
商団の中に、恐ろしい魔術師がいたともな。――それがお前だろう」
「厄介な黒狼を潰した。褒美を出そう」
「いらぬ」
ラズレックは続けた。
「おかしいと思っていた。
フォースクリスタは至宝と聞く。商団で運ぶなどあり得ぬ。
至宝のはずなのに、盗賊の頭が前線に出てこなかっ
――偽物かもしれぬと思っていたのなら、合点がいく」
ミューレンは肩をすくめる。
「偽物でも良かったのかも知れぬ。襲わぬ理由にはならん。
たとえ偽物でも、他の荷で十分に益が出る商団だ」
ラズレックは問う。
「私はドレイクという商人の紹介で、あの商団にいた。
このことを、ドレイクは知っているのか」
「ドレイクという商人は知らん。
商人は、損になることはせん。この件とは無関係だろうよ」
ラズレックは、少し間を置いて言った。
「――本物は、ここにあるのか」
ミューレンは、わずかに笑みを浮かべた。
「あるか、ないかを聞いた時点で、ここから生きては帰れぬぞ」
ラズレックの隣で、男が震えながら腕を引く。
「これ以上は……やめてくだせえ……」
だが、ラズレックは引かなかった。
「あるか、ないか。聞かせてもらおう」
その瞬間、二人の頭を覆うように、水の塊が現れた。
男は息ができず、もがき始める。
ラズレックは焦った。
男を覆う水を払おうとするが、弾かれる。
ミューレンが静かに告げる。
「お前の一言が、お前とその男の命の長さを決めた。
そちらの部屋は、魔術の『起こり』が起きぬようにしてある。
魔術は、魔術でなければ消えぬ」
「ラズレック! その男をこちらに投げろ!」
アヤの叫びが響いた。
ラズレックは男を掴み、部屋の境目へ投げた。
凄まじい勢いで飛び、受け止めたアヤも吹き飛ばされる。
「アヤ! 大丈夫?」
とジェスタ。
「いいから、この男の水を取ってくれ!」
「もう取ってあるわよ」
ジェスタはそう言って、ラズレックに向けて叫んだ。
「男は無事! 落ち着きなさい、ラズレック!」
ラズレックは、頭部に水をまとわされたまま、ミューレンを睨みつけた。




