ジェスタ・ヴェルミナ
盗賊のアジトの外では、商人の親子が無事に再会していた。
商人の子の泣き声が、あたりに響いている。
その周りでは、傭兵たちが怪我の治療をしていた。
「無事終わったな。」
「ああ。全くだ。無事、報酬がもらえそうだ。」
ラズレックは高台から、ティオを探している母親を見つけた。
後ろからついてきていたティオを抱え、バロンの上に乗せると、
「ティオ。あそこだ。」
と母親を指さした。
ティオはバロンに乗ったまま、母の元へ駆けていった。
「日の光をまともに浴びるのは、何年ぶりかの。」
とジェスタが言うと、アヤが尋ねた。
「お前、何歳なんだ? 見た目はティオより一つ二つ上くらいだと思ったけど、その口ぶりだと、かなり歳いってるな。」
ジェスタは、また口元に人差し指を立てて、
「内緒。」
と言った。
ラズレックは、ティオが母親に飛びつき、しっかりと抱きしめられている様子を見つめていた。
アヤが話しかける。
「あの親子の報酬を受け取るまでは、しっかり見届けないとな。」
「うむ。だが、これほどの危険を冒す必要があったのか、未だ納得がいかぬ。死体が出ねばならなかったのか。」
アヤは言い返さなかった。
代わりにジェスタが口を開いた。
「あの屋敷――いや、盗賊のアジトはな、住みつく盗賊団が何度も変わっておる。殺し合いになることも度々あった。罪のない者も、たくさん死んでおったぞ。
まあ、ろくでもないやつらばかりじゃったがな。こいつらが死んで、一つの家庭が救われるなら……奇跡みたいなものじゃ。」
ラズレックがジェスタを見る。
ジェスタは、くすりと笑った。
「おお、怒っておるな。表情は仮面のように変わらぬのに、気配は伝わるものじゃ。」
じっとラズレックを見つめる。
「不思議な存在だ。私は、お前についていくぞ。」
「いらぬ。旅はアヤとしている。」
「では、私は『魔女』として生きるしかないな、この場で力を使うとするかの。」
ラズレックはアヤに尋ねた。
「魔女とは、何なのだ。以前、クラウディアも魔女と言われて怒っていたな。」
アヤは答える。
「魔女ってのは、人を殺した女だ。魔法で人を殺した女をそう呼ぶ。」
「では、男は何というのだ。」
ジェスタが答えた。
「男は『英雄』というのよ。
私が殺した数なんて、国を作った男どもより、ずっと少ないのにね。それでも魔女と呼ばれて、閉じ込められるの。」
「では、この場で力を使うというのは、ここにいる者を殺すという意味か。」
「さあ、どうかしら。
閉じ込められていた私を解いたのは、あなたでしょう。だから、私も旅に連れてって。」
ラズレックは低く言った。
「私は人殺しを嫌悪する。だが、場合によっては殺さぬわけではない。今がその時かもしれん。」
ジェスタは、ゆっくりと笑った。
「やってみれば?
私を一瞬で殺せなきゃ、全員殺すわよ。……あ、ラズレック、あなたは殺せそうにないけど。」
アヤが慌てて割って入る。
「物騒な話はやめてくれ。
ジェスタも変なこと言うな。ラズレックは、お前を一瞬で殺せる力がある。
ラズレックもやめろ。ジェスタが何の魔術を使うかわからない。死と同時に発動する仕組みがあるかもしれないだろ。」
「そんな物騒なもの、ないわよ。」
ジェスタは微笑んだ。
「私の名は、ジェスタ・ヴェルミナよ。」
そう言うと、少女の姿が揺らぎ、
妖艶な目をした、長身の金髪の美女へと変化した。
声も、美しく響く。
「ラズレック。旅が楽しみだわ。」




