光る双眸
ラズレックは困っていた。
人目を引くことは予想していたが、これほど囲まれるほど人が集まるとは思っていなかった。
「これでは、街に入ることも、去ることもできないではないか」
前にも後ろにも人が集まり、いつの間にか子どもまで寄ってきている。その状況に、ラズレックは驚いていた。
ラズレックは、城門の門番に向かって話をしていた。
門番も戸惑っていた。
「巨岩族のラズレック」などという存在を、果たして中に入れてよいのか。
巨岩族とは本来、融通が利かない者や頭の固い者につけられる通称として、たとえ話で語られることが多い。だが、実際に見たことがある者など、まずいない。
門番を務める兵としては、頭二つは大きいラズレックを、身分証もなく通すわけにはいかなかった。
武器は持っていないとはいえ、まるで鎧をまとったような姿である。
だが、「巨岩族」という珍しさもあり、呼び止めているうちに人が集まってしまった。
これほどまでに人が集まった理由は、ほかでもない。
ラズレック自身にあった。
見物人のひとりが、思わず呟く。
「……なんて美しい彫像が、動いているんだ……」
アヤは、動かない方が目立つのか、それとも動いた方が自然なのか、迷っていた。
だが、城門へ向かって駆けていく者が増えているのを見て、行かない方がかえって目立つと判断した。
正直なところ、追ってきた兵との距離が縮まるのはまずい。
そう思いながらも、兵たちとの間合いを保ちつつ、アヤは城門へ向かった。
遠くからでも、ラズレックの頭ははっきりと見えた。
(……なに、あれ。
私の知っている巨岩族とは、まったく違う)
興味が湧いた。
兵の位置を確認し、腰を落とす。
人ごみの中を、気配を消すように器用にすり抜け、前の方へ出た。
そして、ラズレックの全身を見た。
アヤは、思わず見惚れた。
(……これは、美しい)
戦女神の像が、そのまま動き出したかのようだ。
巨岩族などというのは、どう考えても嘘だ。
(人間でないものが、なぜ人間を模す?
材質が岩の生き物なら、人型の筋肉表現に意味はないはず。
それなのに、この体型……黄金比に近い。
人間としての意味しか持たない形)
違和感が、確信へと変わっていく。
(……人間に造られた生き物だ。
しかも、今の世では造れない。
失われた世界の遺物――それも、とびきりの特級品)
とんでもないものを見つけた。
いや、出会ってしまった。
そのとき、アヤは周囲に不穏な気配を感じた。
「……見つかった」
興味に負け、無意識のうちに人ごみを抜けすぎたのだろう。
(そんな格好のお嬢様、いるわけないか)
すでに、数人が距離を詰めてきているのがわかった。
アヤは腰を落とし、気配の薄い方へと身を翻す。
(顔をさらしたのは失敗だった。本格的に隠れないと)
今度は小さな体を活かし、素早く人ごみを抜けた。
やがて小道へ入り、両腕に小剣を構える。
上品だった服は、すでに刃で切り取られ、動きやすい形に変わっていた。
ラズレックは、その高い身長から周囲をよく見渡していた。
昨夜の追跡劇が、再び始まったことに、内心あきれている。
(……美しい碧い瞳の子どもは、いったい何をしたのだろう)




