ティオの決断
ラズレックは、男たちの足を解かなかった。
「……その場で話してみろ」
そう言われて、男たちは顔をしかめた。
「言えるわけがなかろう……こんなことをされていて」
アヤは肩をすくめた。
「まあ、それはそうだな。ラズレック、少し離れるぞ」
そう言って彼を引っ張りながら、小さな声でささやいた。
「……大地の中から母子を守りつつ、盗み聞きするくらい、あんたなら簡単だろ」
そして、動けない男たちに言った。
「私は、あそこの大きな木の陰にいる。その子に頼んでみるといいさ」
木の陰に入った瞬間――
帽子とマントを残して、ラズレックの姿が消えた。
動けない男たちの前に、母子がそっと近づいた。
母親が恐る恐るたずねる。
「あの……この子を泥棒の手先だと思って、追いかけてきたのではないのですか……?」
男の一人が目を見開いた。
「……手先だったのか?」
「滅相もありません」
母親はきっぱりと答えた。
「夫は先の戦争で亡くしましたが……細々とですが、恥ずかしいことはしておりません」
もう一人の男が、深く頭を下げた。
「……違う。我々は……助けを願いたかったのだ」
「お前の子が、空に浮いているのを見て……できると思った。報酬ははずむ」
母親は警戒したまま言った。
「……どういうことですか」
最初の男が、重たい声で語り始めた。
「我が主は商人だ……お前の子が覗いた家の主だ」
「口は悪いが……正直者でな。だからこそ、人に嫌われやすい」
言葉の途中で、男はうつむいた。
もう一人が続ける。
「……その主が、他の商人の恨みを買った。
盗賊を雇われ、息子を誘拐されたのだ……」
ティオを指さし
「同じくらいの年だ。身代金は、あまりに法外で払えぬ額だ。すべて売っても足りぬ」
「だが……仲間に迷惑はかけたくない人でな……」
そして、声を震わせた。
「盗賊のアジトは突き止めた。傭兵も雇った。
だが……牢は二つある。高い場所にあって、どちらに子がいるかわからぬ。
間違えれば……殺されるかもしれない。
……だから、空を飛べる者が、牢の窓からの情報が、必要なのだ。
期限は……あと三日だ。頼む……」
「……そのような大役を、この幼い子にさせるつもりか」
地面から、生えるようにラズレックが現れた。
一同が息をのむ。
アヤも、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「ラズレック……事情は?」
ラズレックは、簡潔に説明した。
アヤはティオを見る。
「……ティオ。やりたいか?」
ティオは不安そうに母の後ろへ隠れた。
アヤは母親を見る。
「……母としては?」
「お断りします」
母親は即答した。
「無理です。見つかれば、矢で射られるかもしれない」
「そんなこと……させられません」
アヤは男たちに向かって言った。
「……だそうだ」
男の一人が必死に叫んだ。
「金貨百枚出す! 一生遊んで暮らせる!」
アヤは、ため息をついた。
「……そんな額を持ってたら、今度は別の盗賊に狙われる。
お前ら、自分たちがなぜ大金を持っていて平気なのか、考えろ」
そして続けた。
「報酬は、まず、丈夫な家を準備すること。それと安定した仕事の紹介だ。あと、その商人の信用証明書だ。金は、生活の準備資金として3枚で十分。」
そのとき、ティオがぽつりと言った。
「……家……ほしい。バロンと遊べる庭つきがいい」
「ティオ!」
母親が慌てる。
アヤは静かに言った。
「……商人の坊ちゃんが死ねば、この二人に一生追われるかもな。」
ティオが 「もう逃げるのは嫌だ。家がほしい。」と言った
母親は泣きそうになっている。
アヤはラズレックを見る。
「……手伝うってことで、いいな?」
ラズレックは首をかしげた。
「……手伝いで、よいのか?」
アヤは笑った。
「そう、手伝いだよ。
この子が家を手にいれたら、おちついて魔術の話を聞けるぞ。」




