ティオとバロン
アヤは、何だか可笑しくてたまらなかった。
ラズレックが、あれほど壮大な魔術を求めていたというのに、目の前に現れたのは、小さな子どもだった。その取り合わせが、どうにもおかしかったのだ。
「なんで、そんなに笑うのさ」
地面に足をつけたロバに乗ったまま、子どもが言った。
アヤは答える。
「それは、風の魔術かい? ロバごと空に浮かぶなんて、大したものだよ」
ラズレックは真面目な顔で言った。
「私は、風の魔術を初めて見た。楽しそうな魔術だな。子どもよ、名前を教えてくれないか。私はラズレックという」
「ティオっていうんだ」
ラズレックは目線を合わせるため、ゆっくりと膝をついた。
「では、ティオ。魔術を使うときは、何を考えているんだい?」
だが、ティオは顔を近づけたラズレックをじっと見つめ、
「すごいね。このマスク、境目がないや。どうやって作ったの?」
と聞き返した。
ラズレックは少し考えて、
「この顔は、マスクとも言えるし、そうでないとも言えるものだな」
「変なの」
ラズレックはもう一度たずねた。
「それで、魔術を使うときは、何を考えているんだい?」
しかし、
「顔が一色じゃん。つまんない。鎧も全部同じ色だし」
と、まるで話がかみ合わない。
その様子がまた、アヤにはおかしくて仕方なかった。
ラズレックは少し困ったようにして言った。
「ティオ。母親はいるのか? 魔術師は家族にいるのか」
「お母さんはいる。魔術は使えない。家族はほかにいないよ」
アヤが聞く。
「この辺に住んでいるの?」
「ううん。旅をしてるんだ。ぼくと、お母さんと、ロバのバロンの三人でね」
「お母さんは、どこにいるかわかる?」
ティオはうなずいた。
「きっと、高く上がればわかるよ」
そう言うと、ロバごとふわりと宙へ浮かび上がった。
しばらくして、草むらがガサガサと揺れ、一人の女性が姿を現した。
「ああ、またそんなに目立って……降りておいで、ティオ」
「お母さん、いた!」
ティオはそう言って降りてきた。
母親は少し叱るように言いながら、やさしく頭をなでる。
「上に行ったらだめでしょう」
そしてロバにも声をかけた。
「ありがとう、バロン。あなたの重さがなかったら、きっとどこかへ飛んで行ってたわ」
その母親は、ラズレックとアヤに気づくと、ぎょっとして身をこわばらせた。
「……見ましたか?」
アヤは笑って答えた。
「見たよ。すごく面白い魔術だった」
母親は真剣な表情になり、
「このことは、秘密にしていただけませんか」
と言った。
「わかってるよ」
アヤはうなずき、
「こっちのラズレックも、土の魔術みたいなことをするしね」
と言った。
ラズレックは地面に手を当て、さっと動かす。
すると、バロンに乗るティオの土の像が、あっという間に形作られた。
バロンは驚き、ティオは目を輝かせ、母親は少し安心したようだった。
「それでは、先を急ぎますので」
母親と、バロンの背に乗ったティオは、深く頭を下げた。
そのとき、ラズレックが静かに言った。
「……ティオと、もう少し話がしたかったのだがな。だが、あの草むらをかき分けて来る男たちを止めれば、その余裕もできるのかな」




