ラズレックの旅
ラズレックは、長い間、話をしていた。
話を聞く村人たちは、代わる代わる酒や食べ物を皿に盛り、戻ってきた。
ラズレックは食事をせず、水も飲まない。しかし、その周りには、常に食事が運ばれていた。
ラズレックはいらないと言ったが、村人たちは笑いながら、次々と持ってくる。
やがてラズレックは、食べ物が少なくなった者たちに、それを渡すようになった。
村人たちは、渡された料理を喜んで食べ、また新しい料理をラズレックの前に置いた。
「さあ、この辺りに兵はいなくなった」
そう言って、ラズレックが外へ出ようとすると、
「そうですな……」
と、名残惜しそうに村人が言った。
坑道から出ると、村の中は荒れていた。
荒れ方はひどかったが、村人たちは、
「焼かれていなければ御の字じゃ」
と言った。
家は手早く片づけられ、皆、畑へ向かった。
作物は取られていた。
「食べ物に苦労するかのう……」
と村長がつぶやいた。
ラズレックが、
「食べられない私に、食事を用意しすぎだ」
と言うと、
「ラズレック様の話は、ひどく面白くて楽しかった。あれはあれでよいのです」
と返ってきた。
アヤが言った。
「ラズレック、気にするな。ここは探索者の村だ。食い物はなくなったけど、売って金になるものを、みんな少しずつ持ってるさ」
村長は笑って言った。
「そういうことですじゃ。ラズレック様、今後はどうなさるので? この村に留まってくだされば、皆、喜びますがのお」
ラズレックは答えた。
「いや、すまぬが旅に出る。私は魔術に興味がある。あの不思議な力が、何から生まれているのか知りたいのだ。私の力とは、根本的に成り立ちが違うからな」
村長はアヤを見て言った。
「お前は、ついて行くのだろう」
アヤは、うなずいた。
「うらやましいやつじゃ。これも運命かのう。ラズレック様、アヤを連れていってくだされ。きっと役に立ちますじゃ」
ラズレックは言った。
「知っている。このマントも帽子も、アヤからもらったものだからな」
村長は笑いながら、
「旅費にせよ」
と言って、金貨と赤く光る記憶宝石をアヤに渡した。
翌日、ラズレックは皆に別れを告げた。
皆は、
「いつでも帰ってこい」
と言った。
ラズレックは、
「お礼に、坑道の中に、こぶし一つほどの金と、こぶし五つほどの銅を集めておいた。困ったときに役立ててくれ」
と言った。
ラズレックは、見えなくなるまで、村中から振られる手に向かって、大きな手を何度も振った。
アヤは、それを見て笑っていた。
アヤが言った。
「さて、ラズレック。どこへ行こうか」
ラズレックは答えた。
「魔術が多く見られる地方はないのか」
アヤは言った。
「基本、魔術は秘密にされるものさ。珍しいからな。クラウディアみたいに、あえて有名にする場合もあるけどね。
魔術が使えると知られると、この辺じゃ誘拐されて売られることもある。売られた先が貴族ならまだいいが、石の部屋に閉じ込められて、魔術で働かされることもあるんだ。
だから、みんな隠すのさ。会いたくて会えるのは、クラウディアみたいな特別に強い魔術師くらいだよ」
ラズレックは言った。
「クラウディアの雷は見た。他に有名な魔術師は、どこへ行けばよい」
アヤは少し考えてから言った。
「ルドルフ・ミューレンっていう水の魔術師がいる。『深淵の調律者』なんて異名を持ってて、執政官サルヴァンの弟子らしい。この辺で有名なのは、そいつかな」
ラズレックは言った。
「では、会いに行こう」
そう言って一歩踏み出した、そのとき――
草むらから、小さなロバに乗った小さな子どもが飛び出してきた。
ロバごとラズレックにぶつかりそうになり、ラズレックは受け止めようとした。
だが、ぶつからなかった。
ありえない角度で、三倍はありそうなラズレックの体を飛び越えたのだ。
ロバと、その上の少年は、ゆっくりと降りてきた。
ロバは宙に浮いたまま、足をばたつかせている。
「大丈夫?」
と少年は言った。
アヤは笑って言った。
「あはは、ラズレック。見つかったぞ。お望みの魔術師が」




