ラズレックとアヤ
アヤは馬に乗り、フリッツに会ってラズレックの「動くな」という伝言を伝えると、馬を乗り換えてすぐに帰路についた。
(ラズレックに置いて行かれる……)
城では、フリッツからサルヴァン執政官を経由して、クラウディア妃に報告が届いていた。
クラウディアはサルヴァンに言った。
「あの化け物が、恐怖を与えるそうだぞ。怖かろうな。」
サルヴァンはゆっくりと答えた。
「味わいたくはありませんな。」
そして続けて、
「私兵を使っての侵略……大事になりますかな。」
と尋ねた。
クラウディアは首を振った。
「大きくするなよ、サルヴァン。
あれを巻き込めれば、我らは大きな力を得るが……
少なくとも、ティル河の者たちを守った。敵ではない。」
サルヴァンは小さく笑った。
「少し惜しい気もしますのう。」
ラズレックは、高台から兵たちが呆然とした顔で退却していく様子を見ていた。
周囲が明るくなる。
昨夜まで崖だった場所は、跡形もなく消え、元の道に戻っていた。
兵たちは昨夜の恐怖を振り払うように、足早にその場を離れていった。
「……ティル河へ行ってみるか。」
ティル河周辺では、ジルファが三つの地区の長を集めて説得していた。
「森に怪しい兵が入りました。
皆さんは逃げてください。
守護の兵もいますが、この土地は危険です。」
一人が声を荒げた。
「逃げろと言って、どこへ行けというのだ。
ここは国の端だぞ。
他国へ行けというのか。誰も守ってくれぬではないか!」
ジルファは頭を抱えた。
そこへ、ラズレックの声が響いた。
「ジルファ。よく頑張っているな。」
「ラズレック様……!」
ラズレックは集まった長たちに告げた。
「兵は追い返した。もう来ることはない。」
「おおお……!」
どよめきが広がる。
「ジルファよ。守護兵に伝えよ。
森から兵が出てくることはないとな。」
ジルファは呆然としていた。
「ジルファ、聞こえているか。」
「……い、いつこちらへ?」
「今だ。」
ジルファはその場に崩れ落ち、泣き出した。
「ラズレック様……!」
三つの地区の長たちは、これまでジルファを頼りなく思っていた。
だが、彼の背後にラズレックがいることこそが、最大の価値なのだと悟った。
アヤは村へ戻ると、すぐに尋ねた。
「ラズレックは帰ってきた?」
村人たちは手を振り、まだ戻っていないことを伝えた。
(マントと帽子、意外と気に入ってるはず)
アヤはそう思った。
その夜、ラズレックは村の坑道を歩いて回っていた。
「村の者よ。
再び兵が退却してくる。
しばらくは坑道の中で過ごしてほしい。
その間、そなたらの問いには何でも答えよう。」
村人たちは大喜びだった。
アヤも、ようやく胸をなで下ろした。




