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ラズレックの期待

 ラズレックとアヤは前回と異なり、あっさりと城内に入ることができた。


「お待ちしておりました」


 フリッツである。


 


「クラウディア殿に会いたい」


 ラズレックが言うと、フリッツは即座に頷いた。


「もちろんです」


 フリッツも旅の装いではなく、騎士鎧を纏った正装だった。


 ラズレックとアヤの目の前には、赤い絨毯がクラウディアの玉座まで真っすぐ伸びている。

 左右には騎士たちが整列し、クラウディアに最も近い位置に執政官サルヴァンが立っていた。


 


 ラズレックは堂々と絨毯の上を歩き、クラウディアの前に立った。


 


 クラウディアは今回も玉座の手すりに肘を立て、頬杖をついたまま、不機嫌そうに声を上げた。


「帰ってきたか、ラズレック。早すぎるな。一月も経っておらぬ。

 せっかく追い出したというのに」


 クラウディアは少し間を置き、続けた。


「お前は確かにティル河周辺を穏やかにした。

 ――だが、“神の使い”を名乗ってはならぬ。

 この街にも神官はいる。厄介な火種になる。どうする、サルヴァン」


「隠すしかないかと」


 サルヴァンが言うと、クラウディアは騎士たちへ命じた。


「皆、口外無用じゃ」


 


 クラウディアはラズレックに向き直った。


「約束どおり、誰一人殺さぬぞ。

 ……なんせ、お前に私は殺されたくないからな」


 冷たい笑み。


「一人で小隊ひとつ手玉に取ったそうだな。恐ろしいやつめ」


 サルヴァンがその後を続けた。


「フリッツに聞いた。ノーディア帝国の鎧を着た兵がいたようだな。それは本当か」


 ラズレックは淡々と答えた。


「知らぬ」


 騎士たちがざわついた。


 アヤがすかさず言い返す。


「ラズレックが、鎧で国を見分けられるわけないだろ。フリッツが見たんだ。聞くならフリッツに聞け」


 クラウディアが眉をひそめた。


「お前もなかなか無礼だな」


 アヤは肩をすくめる。


「そうかい。あんたがラズレックの怒りに触れないよう、気をつけてるつもりだがな」


 ラズレックはアヤの前に手をかざし、制した。


「私は約束を守った。そちらも『一人も殺さぬ』と言った。その約束を果たせばよい。

 私はこの都市を去る」


 ラズレックが背を向けた。


 


「待て」


 クラウディアが呼び止めた。


「フリッツが、お前に褒美を出せと言った。

 フリッツの見立てでは、ノーディア帝国の先遣隊であろう」


 クラウディアは淡々と続ける。


「騎士であれば甘く出れば攻められる。強く出れば争いの種とされる。

 どちらにせよ小競り合いは免れぬ」


 そしてアヤを見た。


「アヤと言ったな。お前が“土の魔法使いがいる土地”と言ったおかげで、帝国兵は民間人に追い返された形となった。

 こちらはいくらでも言い訳が立つ。

 騎士が民に負けたなど、奴らは口が裂けても言えぬ」


 最後に、言い切る。


「我らはティル河に守護のため兵を送った。大事に至らなかったのは褒美に値する」


 クラウディアは付け加えた。


「いらぬとは言うな。去る前に、我の顔を立てよ」


 


 ラズレックは少し考えてから言った。


「ならば――雷の魔法を、私に当ててはくれぬか」


「なに?」


 クラウディアは聞き返す。


 ラズレックは繰り返した。


「雷の魔法を、私に当ててみよ」


 クラウディアの顔が怒りに染まった。


「なめているのか。焼け焦げたいか!」


 ラズレックは冷静だ。


「できぬのか。私はこの世界に来て、一度も魔法を見たことがなくてな。

 望みはそれだけだ」


 アヤはまずいと思った。

 以前はハッタリで「効かない」と言った。だが雷撃は違う。

 雷は記録宝石さえ一瞬でただの石に変える。

 古代技術は雷に弱い――探索者の基礎知識だった。


 


 クラウディアは笑った。


「願ってもない申し出じゃ。

 恐ろしい存在が“当ててほしい”と言うのだからな」


 ラズレックが言った。


「できぬのなら良い。それ以外の褒美はいらぬ。去らせてもらおう」


 クラウディアの目が細くなる。


「……では、死ぬがよい」


 


 ――バリッ。


 光が走り、

 ゴゴゴーン、と空気を貫く音が謁見の間を揺らした。


 


 ラズレックは光り、黒く焦げ、片膝をついていた。


 アヤは思わず耳を押さえ、しゃがみこんでいた。

 こんな間近で雷撃を見たことがなかった。


 


 ラズレックが、少しずつ動き出す。

 声が聞こえてきた。


「・・・魔法を見た。

 室内で、何の準備もなく雷を撃った。

 明らかに“無いもの”の中に、“有”が生まれた」


 低く、確信に満ちている。


「作ったのではない。どこかより、引き寄せている。

 次元を超えて――持ってきている」


 アヤが息を呑む。


「人は、次元を超えるものへ進化している。

 人は同じではない。変わっている。

 ――期待できる」


 


 ラズレックは立ち上がる。

 黒く焦げた表面が剥がれ落ちていく。


 緑に光る瞳。


「クラウディア殿。感謝する。

 私は雷を“動きの糧”とするもの。

 この街で動きが止まりそうだった。子どもたちの像となるのも悪くないと思っていた」


 そして、静かに告げた。


「褒美は受け取った。さらばだ」


 


 ラズレックは踵を返し、颯爽と歩き出した。

 焼け焦げた黒い欠片が、歩くたびに落ちていく。


 上方から射す光に照らし出されたのは――

 大理石のような白銀に包まれた、美しき彫像だった。

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