再びヴァル=ノーデン自治領
ラズレックは城への道を歩いていた。
ラズレックの表情はいつも変わらない。
ただ、アヤが話しかけても、はっきり答えない時が増えていた。
フリッツもまた、ノーディア帝国兵を見てから迷い始めていた。
ラズレックを城から引き離すのが正解なのか。
それとも味方に引き入れられるなら、これほど心強いものはないのか――。
もはや一概に、城から遠ざけようとは思えなくなっていた。
やがてヴァルノーデン城が見えてきた。
城門の兵は顔を引きつらせながらも、フリッツと話すとラズレックとアヤを中へ通した。
前とはまったく違う迎えられ方だった。
「ラズレックだ!」
叫んだのは子どもだった。
城の誰よりも強いと噂のラズレックは、いつの間にか街の人気者になっていた。
「ラズレックに銃が利かないって本当!?」
「あの大きな騎士たちを引きずって、クラウディア様に会いに行ったの!?」
大人たちは恐れて近寄らない。
だが子どもは無邪気に距離を詰めてくる。
ラズレックは自分が岩のように固く、重いことを知っている。
だから、できる限り優しく諭した。
「子どもよ。私は危ないのだ。近寄ってはならぬ」
ラズレックがかがんで一人の子を自分から離そうとした、その時だった。
一人の子どもが家の屋根から跳び――ラズレックの頭に飛び乗った。
「やったー!」
ラズレックは呟いた。
「相変わらず、子どもの行動は意味がわからん」
首にしがみついた子どもに尋ねる。
「降りられるか」
「降りない!」
上へ語りかけているうちに、別の子どもが足から腰へよじ登ってきた。
真下では、もっと小さな子がじっとラズレックを見上げている。
ラズレックは、ついに動けなくなった。
「私は危ないというのに……どうしたものか」
アヤは笑った。
「ラズレック。あんたを止める方法、意外と簡単だな」
フリッツは「先に城に行く」と言い、早足で城へ向かった。
城では、ラズレックが戻ったことが伝わり、すでに戦闘準備が始まりかけていた。
そこへフリッツが駆け込む。
「戦闘態勢を取るな。逆に迎える準備をしろ。
ラズレックには、どんな備えをしても勝てん。意味がない」
フリッツは息を整え、続けた。
「クラウディア様、サルヴァン様はどちらに?
緊急事態だ。すぐに伝えてくれ」
その後、城では緊急会議が開かれた。
一方のラズレックは、人だかりの中で完全に動けなくなっていた。
子どもだけではない。大人たちも、その姿を見ようと集まってきた。
「どうも・・・娯楽の一つとなっているようだ」
アヤはぼそりと呟いた。
「ピエロ、ってやつだね」




