ラズレックの憤り
ラズレックは、アヤとフリッツを伴って城へ戻る途中だった。
フリッツは何とか城から遠ざけようとするが、
「心配するな」
ラズレックはそう言って聞かなかった。
人の命がかかっている。だからこそ、何が何でも城へ戻るつもりなのだ。
ヴァル南耕地の山に差し掛かった頃、あたりは薄暗くなり、ここで野宿となった。
「……殺気がある」
アヤが両手に小剣を構え、腰を落とす。
ラズレックは、ジルファがいた山賊の残党かと思った。
姿は見えない。だが、ざっと気配が動いた。
ラズレックは大声で言った。
「やめよ! ジルファは職を得たぞ!
これからこの地は開墾で人手がいる。盗賊をやめよ!」
――キンッ。
闇から飛んできたナイフがラズレックの身体に弾かれた。
「相手は本気だぞ、ラズレック!」
アヤはさらに腰を落とす。
フリッツも長剣を抜き、両手で構えた。
「アヤ、フリッツ。敵は前方のみ。囲まれてはいない」
ラズレックの声に、アヤは短く応える。
「了解」
ラズレックは言った。
「今、全員の足を埋めた。飛んでくるものに気をつけよ」
木々の間から悲鳴が上がった。
――ダン!
大きな音が響き、ラズレックの肩がへこむ。
「フリッツ! 銃だ! 伏せろ!」
アヤが叫ぶ。
「木の上からだろう。木の上は把握しにくいからな」
ラズレックの肩のへこみは、すでに消えていた。
「二人はそこを動くな」
ラズレックが言うと、二人の前方に土壁がせり上がった。
フリッツは壁を見て目を見開く。
目をぱちくりさせるフリッツへ、アヤが囁いた。
「今の私たちの文化レベルじゃ・・・・・・ラズレックは理解できないんだ」
銃声が何度も響き、やがて悲鳴に近い声が続いた。
しばらくしてラズレックが戻ってきた。
「フリッツ。来てくれ。襲ってきたのは山賊ではないようだ」
フリッツが駆け寄る。
倒れている死体は数体――山賊の装いだった。
アヤも周囲を見回しながら言った。
「私たちが山賊の残党だと思われたのかもね」
そして、腰まで地面に埋まっている者たちを見て続ける。
「……でも、この埋まってる連中は兵だ」
何人もの人間が、腰まで地面に埋まり身動きできなくなっていた。
「お前は何者だ・・・!」
声が聞こえるが、ラズレックは無視している。
フリッツが鎧を見て顔色を変えた。
「・・・私たちの鎧ではない。この軽鎧はノーディア帝国のものだ。なぜ帝国兵がここにいる・・・」
アヤは考えをまとめるように言った。
「山賊が帝国で悪さをしたから追ってきた? でも国境を越えてまで追うのは考えにくい。
侵略のためか……。帝国と分かる鎧を着てきたってことは、戦になる前提だ。
作戦の途中で山賊に遭遇して交戦、ついでに私たちも敵と判断した……そんなところだろうね」
腰まで埋まっている者たちは相当数いた。
フリッツが数えて息を呑む。
「・・・一小隊が地面に埋まって動けない・・・」
アヤは埋まっている隊長らしき男へ言った。
「詳しくは聞かない。巻き込まれるのは嫌だからね。
でも、この国に――特にこの土地に近づかない方がいい」
アヤは冷たく笑う。
「銃も効かない凄腕の“土の魔術師”がいる。実力は君たちの今の姿が証明してる。
一小隊でも、一大隊でも、あっという間に埋める。次は頭ごと埋まるよ」
隊長が叫ぶ。
「お前たちの名は!」
アヤはぺしっと額を叩くように言った。
「言うわけないだろ。くだらない名乗り合いなどするか」
ラズレックは二人を自分の後ろへ下がらせた。
そして埋まっている者たちの地面を緩めた。
「大地から体が抜けるはずだ。抜けたら帰れ」
抜け出した者たちは腰の剣を探したが、鞘すらなかった。
ラズレックが告げる。
「武器と認識したものは、大地に還した。お前たちは丸腰だ。反撃を考えるな。
再度埋まりたいか?」
声が低くなる。
「そのまま戻ればよい。
だがそこから一歩でも前に出た者は――首だけ残して大地に埋める。
狼か野犬に喰われるがよい」
アヤは感じた。
ラズレックは死体を見て――怒っている。
その時、巨体の兵が一人、ラズレックに殴りかかった。
ラズレックは殴りかかってきた腕を、ただ殴り返した。
――パンッ。
短い音。兵の腕が弾け飛び、血しぶきが舞った。
男の身体は倒れることもできなかった。
すうっと地面が開き、首だけを残して沈んでいく。
そして、悲鳴が闇に響き渡った。
その光景に、アヤもフリッツも恐怖した。
隊長が震える声で言う。
「その者を……連れて帰りたい。地面を緩めてはくれぬか」
「ならぬ」
ラズレックは言った。
「頭を狼に食われる前に死ねることを是とせよ」
そして静かに続ける。
「私は見ていた。
兵として命令があって殴りに来たのではない。
この男は――ただ、私を我慢ならなかったから殴りかかったのだ。
だから私も殴り返した。警告を破ったゆえ埋めた」
隊長は小隊に退却を命じた。
ラズレックは、山賊との戦いで死んだ兵、そして首だけ出てすでに事切れた兵を――大地へ沈めた。
ラズレックは低く呟いた。
「全くもって不愉快なり」




