城主クラウディア
アヤは周囲を観察しながら言った。
「ラズレック。城主のいる場所、逆方向だったらしいね」
ラズレックは、まっすぐ前を見ている。
そしてサルヴァンは、先ほどラズレックが騎士たちを引きずっていった――その逆方向へと歩いていた。
サルヴァンは、これまでの扉より倍はありそうな巨大な扉の前で足を止めた。
「さて。この先は謁見の間である」
サルヴァンはラズレックとアヤをもう一度見やり、口元を歪めた。
「身だしなみを整えろと言いたいところだが……お前たちは誠に“不審者にふさわしい格好”だな」
そう言って、扉を開けた。
扉の向こうには、騎士たちが左右に列を作っていた。
その中央に――深紅のドレスを着た女性が、大きな玉座に座していた。
長年積み重ねた経験だけが生み出す「凄み」がある。
足を組み、玉座の肘掛けに頬杖をつきながら、ラズレックたちを見下ろしていた。
「サルヴァン。お前。・・・・・・引退したいのか」
城主の声が、広い謁見の間に響き渡った。
「クラウディア様。私はいつも引退したいと言っているつもりですが。
まあ、仰せの通り“面白い者”を連れてきましたよ」
サルヴァンは平然と答えた。
クラウディアはニヤリと笑う。
「お前がこの城主の座に私を縛りつけたのだろう。死ぬまで引退などさせぬさ」
そして二人を指さした。
「この二人か。
我が騎士たちを引きずりながら城を歩き回った者というのは」
サルヴァンも、わざとらしく笑った。
「どうされますか。
そこにいる無能な騎士どもでは捕まえることすらできず、困っていたようですが」
クラウディアの視線がラズレックに刺さる。
「お前たちは、なぜ立ったままなのだ。無礼とは思わぬのか」
騎士たちの刃が、わずかに揺れた。
ラズレックは後ろを向いた。
「アヤ。この場合、私はどうすればよいのか教えてくれ」
アヤは両手を広げた。
「分かると思うけど、教えない。
周りを見てよ。今にも飛びかかってきそうな騎士が大勢いる。
礼儀より命が大事だよ」
クラウディアはアヤの言葉に目を細める。
「サルヴァン。この小さい娘はなんだ」
「ラズレックの――なんじゃ、お前は」
サルヴァンが問い返すと、アヤはきっぱり答えた。
「ラズレックの旅の同行者であり、探索者だ」
サルヴァンが鼻で笑う。
「なんだ。盗人であったか」
「探索者だ」
アヤは即座に言い返した。
クラウディアはサルヴァンへ問う。
「探索者とはなんだ」
サルヴァンは肩をすくめる。
「金目の物を盗むのが盗人で、わけの分からんものを盗むのが探索者でございます」
クラウディアは声を上げて笑った。
「どちらにせよ盗人ではないか」
アヤは不機嫌そうに口を尖らせた。
「ラズレック、帰ろう。関わり合うだけ無駄だ」
クラウディアの笑みが深くなる。
「ここまで無礼を尽くしておいて、何事もなく帰れると思うか」
アヤは引かない。
「あなたの持つ錫杖――時々光ってる。なるほどね。
あなたは雷の魔術師だ。けど、それでもラズレックには効かない」
ラズレックが興味深げに言う。
「おお。雷の魔術か。撃ってほしいものだ」
クラウディアはアヤを見て言った。
「魔術師の知識があるのか。
ではもう一人、魔術師がいるが・・・・・・誰か分かるか」
アヤはサルヴァンを指さす。
「杖の上の水晶の中が揺れてる。水の魔術使いだ」
クラウディアは頷いた。
「よく見ている。
だが、お前――サルヴァンがわずかに高い位置に立っているのが分かるか」
クラウディアの声が冷たくなる。
「いまサルヴァンが水の魔術で床を水浸しにし、私がそこに雷撃を放てば――お前は死ぬ。
それが分かっているのか」
アヤは言葉を失った。
「・・・・・・さすがに考えてなかったよ。
こんなところに二人も魔術師がいるなんてね。
まさか城主が“魔女”とはね」
クラウディアの顔が赤くなる。
「私を“魔女”呼ばわりしたな。生きて帰れると思うなよ、小娘」
そのとき、ラズレックが前へ出た。
「生きて帰れぬとは、命を取るということか。
どうもこの世界は、命を軽視する言葉を使いすぎる」
静かに、はっきりと言う。
「私の望みは、だれも罪に問われぬこと。誰も死なぬこと。
私の無知が招いたことだ。
だが意図して無知でやってきたわけではない。それを伝えに来た」
クラウディアは玉座の上から答えた。
「信賞必罰を間違えれば、国は成り立たぬ。
お前のような不穏なものを街に入れ、城に侵入された以上、罰は必須である」
ラズレックは言った。
「では、手柄を立てよう。
信賞必罰というのだろう――悪き事を、良き手柄で相殺せよ。
今後罪に問われる者を私に預けよ。
全員で手柄を立てる」




