執政官 サルヴァン
ラズレックは足を止めた。
扉を開けた先は、空の会議場だった。今だ誰も使って者がいないかのような静けさ。
広大で、天井も高い。荘厳さすら漂っている。だが――次へ続く扉がない。
「行き止まりだよ、ラズレック」
アヤは、ラズレックが何人の騎士を引きずったままここまで歩いてきたのかと思うと、あきれを通り越して感心すらした。
ここまで来れば、アヤを捕まえようと手を伸ばす者もいた。
だがアヤは軽快なステップを踏み、つかまることはなかった。
「――やめよ」
声が、会議場に響き渡った。
その声ひとつで騎士が全員動きをとめ、声の主へ振り向く。
「執政官……サルヴァン様……」
騎士たちは、己の情けなさに目を合わせられなかった。
執政官サルヴァン。
小柄な体格、眼鏡をかけた白髪の老人。杖をつき、そこに立っていた。
「騎士を名乗るお前たちが、なんとも情けない限りだ」
サルヴァンは鋭く言い放つ。
「もう良い。そいつを放してやれ。
お前たちが必死だったことは、その血走った目で分かるわ。
剣も効かぬ、銃も効かぬ。攻撃を加えても、抵抗すら必要ないと見える。
ならば、話を聞くしかあるまいよ」
ラズレックの頭にしがみついていた騎士が叫んだ。
「しかし、サルヴァン様!
このままでは、私は騎士を名乗れません。万死に値する有様です!」
サルヴァンはため息をつく。
「城の守りの最高責任者だったな。騎士フリッツよ。
城主様に直接詫びよ」
ラズレックは、頭の上からフリッツをつかみ、目の前へ下ろした。
「簡単に“万死”などという言葉を使うな」
ゴン、と額を小突く。
軽く叩いた程度だったが、ラズレックの身体は剣を弾くほど硬い。
フリッツは痛みでその場に座り込んだ。
サルヴァンはラズレックに向き直った。
「――何が望みだ」
「私は、この都市に入ってしまった。
城門の門番は罪となるか」
「罪となる」
サルヴァンは即答した。
「このフリッツの次に大きな罪となるだろう」
サルヴァンは杖をフリッツへ向ける。
「お前のような危険な存在を招いた罪は重い」
ラズレックは落ち着いた声で語り出す。
「私は近くの山で目覚めたばかりでな。
山から明かりが見え、それを頼りに来た。
私は・・・・・・たぶん、人が好きなのだ」
少し間を置き、
「だが、私が怪しく見えることも理解できる。
止めようとした城門の兵は正しい。
ただ――わかったであろう。私を止められる者はいない」
そして淡々と言った。
「私は街が見たかっただけだ。すぐに街から出ていこう」
サルヴァンは眼鏡越しに目を細めた。
「役目は、怪しい者を止めることじゃ。
現に入られておる。それは罪に問われねばならん」
そこへ割って入ったのはアヤだった。
「その罪を変えられるのは、城主の権限じゃない?」
サルヴァンは、にやりと笑ってアヤを見る。
「それもそうじゃな。
城主から『面白いやつらなら連れて来い』とのことだったのう」
サルヴァンはラズレックとアヤに手招きした。
「――ついてこい」




