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3人は馬車から下りて御者に礼を言った。


城門には見張りの兵士が二名立っている。


アルマが淀みなく告げる。

「おはようございます。調剤室の薬の在庫の管理に来ました。アルマとアドニスさまとその助手の方です。」


「こんな時間からとは、大変だな。」

兵士が気の毒そうに言う。


辺りはようやく薄明かるくなってきたところだった。


「昨日さぼっちゃったので、始業前に間に合わせたくて。」

アルマの後ろめたさを全く感じさせない喋りに、アドニスはアルマに感心する。


(門番とのやり取りを事前に心積もりしてきたのだろうか、すごく自然だ。)


「通っていいぞ。」

門番は疑いもせず通してくれた。


アルマは前を向いたままで、説明する。

「こちらですよ。少し早足で行きます。調剤室とは全く方向が違うので。」


王宮の広い庭園を抜けて、しばらく進むと人気のない道に出る。

木々の間を縫うように進むと、隠れるようにして神殿が立っていた。

明け方の神殿は、澄んだ空気の中で神秘さを増している。


神殿までの通路に敷いてある石畳の隙間に白い花が咲いている。

アドニスとミラダが足元を見る。

「これかな…」


石畳の間隔が狭いため、スコップを入れて花を根ごと掬えるか難しそうだった。



アドニスが背負っていたリュックから、スコップを3人分取り出した。

アルマが持ってきた水筒の水を少しかけて、土を湿らせる。


なるべく根本から掬えるように、石畳の隙間にスコップを深めに入れて掘る。


持ってきた育苗ポットに土と一緒に入れる。

「やれるだけはやってみよう。」

アドニスは人数分の育苗ポットを出す。



3人で一心にしゃがんで掘る。



最後に掘った後の地面を均していく。




「これはどういうことだ?」

夢中で作業をしていたせいで、人の気配に気付かなかった。


近衛兵と第3王子のモラドが立っている。



短気なモラドは石畳を見て頭に血が上り、状況を把握することなく、すぐに抜刀した。


「ここは神聖な場所だ。石畳の間の土を掘り返すなどという、非常識な愚行を犯したからには命はないと思え。」


「仕事です、お手入れしておりました!」


アルマが立ち上がり、機転を利かせて発言した。

アドニスとミラダも立ち上がる。


近衛兵がミラダを見て、目を見張り頬を染めた。



(そうか…王家はこの白い花が『白の魔女の花』だとまだ知らないなら、このまま逃げ切れるのか……)



(しかしそうなると、アルマは『白の魔女の花』を神殿で見つけたといったが…そもそもどこでこの花の情報を仕入れたんだろう?)


(ミラダは獣人国のネーベル辺境伯からだと聞いたけど…)



王子が自分の早とちりを恥じたのか、カッとなって剣を振り下ろす。

「誰が口を開いて良いと言った!?ここは私にとって特別な場所だ。私に無断で立ち入るなど言語道断!」



(そういえば噂があった…第3王子モラドが白の魔女の生まれ変わりに懸想して振られたと。その女性はこの国を見捨てて隣国に行ってしまった。ここは大魔女ルネスの消滅した場所で王子はここを(よすが)にしていると。)


(噂は本当だったんだ…ぼくたちは王子の想い人にまつわる場所を荒らしてしまった。)


アルマに振り下ろした剣を、ミラダが柄の部分を手刀で跳ね上げて剣を飛ばした。


「私が二人を脅して、ここに忍び込むよう手引をさせた。二人は関係ないのだ。」


王子は今ミラダに気付いたようだった。


そしてミラダの美しさに目を奪われた。


「お前が私の慰みものになるなら、二人を見逃そう。」

王子はミラダを女性だと勘違いしているようだった。


アドニスと、アルマが息を呑む。


ミラダが二人を自分の背に隠した。

「二人は急いで逃げろ。」

小声でミラダが二人に告げる。


「でも……ミラダを生け贄みたいにしたくない。」

アドニスは、なんとか3人で逃げる方法を一生懸命考える。


ミラダが後ろ手にアドニスの手をギュッと握る。


「大丈夫だ、あの王子は私を女だと思っている。隙を付いて逃げるさ。」


そう言うと、ミラダの声のトーンが優しげなものから有無を言わせない調子に変わった。


「アルマ、必ず二人で逃げろ。」


この場に留まりそうなアドニスを確実に連れて行くように命じる。

「承知しました。」

アルマも今までの暢気な調子から一変、硬い感じで返事をした。



「どうする?私は美しい人には紳士だ。私と来るのか?」

モラドが痺れを切らして催促をする。


「二人を見逃すと、この地に誓ってくれ。」


ミラダもこの花の情報を聞いた時、この王子と白の魔女の生まれ変わりの女性の経緯を聞いていた。


「……いいだろう。彼女を連れてくるんだ。」

モラドがそばにいた近衛兵に指示した。


近衛兵がミラダが逃げないように、左右を挟み込むように連行する。


アドニスとアルマは為す術もなくただ見送った。


「第3王子って、聞いていたとおりのアホですね。」

アルマがモラドたちの姿が遠のいてから悪態をついた。


「しっ、王宮内でそんなことを言ったら駄目。」

「それより、ミラダを助けに行きたい。モラド王子の部屋の場所がわかる?」


アルマが足元の育苗ポットが無事か確認する。


「まずは、育苗ポットをリュックに入れましょう。よく上手いこと隠しましたね。」


アドニスはとっさに、花を入れていた育苗ポットにリュックを覆い被せて隠していた。


アドニスが育苗ポットをリュックに仕舞う。


「ミラダさまは、男性だし鍛えておいでのような体つきでした。獣人ですので恐らく近衛兵より強いでしょうから大丈夫だと思いますよ。」


アドニスがアルマの言葉に目を丸くした。


「アルマ……ミラダから聞いたの?」

「はいはい、今は妬いてる場合じゃありませんよ。」



遠くで叫び声が聞こえる。


アドニスは不安気な顔をして、すぐに声の聞こえた方に顔を向け目を凝らす。


アドニスは、ミラダの叫び声では…と不安にかられる。


「あの声は第3王子でしょう。ミラダが男だとわかったんじゃないですか?」

「え……もう?」


(部屋に連れて行く前に、性別がわかるようなことをされたのか?)



ミラダがアドニスたちの方へ走って向かってきた。

2人がまだ留まっているところを見て呆れた。


「お前たち、逃げろと言っただろう。行くぞ。」

「ミラダ、無事で良かった……」

「それは、後だ。馬車まで戻るぞ。」


3人は来た道を一目散に引き返していく。

城門の衛兵にはまだ情報がいってないようですんなり通してくれた。


乗ってきた馬車が城門の近くで待機している。

3人は急いで馬車に飛び乗った。

御者が心得たように出発する。


途中の休憩で、アルマが御者にプランBとだけ告げる。








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