07
クレイン公爵の死から三ヶ月が経ち、アーラント王国は徐々に安定を取り戻しつつあった。アルバート王は公式に王位に復帰したが、日々の政務の多くを甥のエドワードに委ねていた。
王宮の庭園で、アルバート王はエドワードと歩いていた。若き王子は二十六歳になったばかりで、聡明さと優しさを兼ね備えた青年だった。
「伯父上、西部の再建計画については承認いたしました。来月には工事が始まります」
「よくやった、エドワード。民の暮らしを第一に考えることを忘れるな」
アルバート王は心から甥を誇りに思っていた。彼はかつて自分の息子のように彼を育て、政治の全てを教えてきた。クレインの反乱の際も、エドワードは隠れ家で待機しており、もし計画が失敗した場合は、国外に脱出して抵抗を続ける予定だった。
「エルドニア王女との婚約式の準備は順調か?」
「はい、来月の式典には両国の貴族が多数参列する予定です」
アルバート王は満足げに頷いた。エドワードとエルドニア王女マリアの婚姻は、両国の絆を強固にするだろう。
「伯父上、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「何でも聞くがよい」
「クレイン公爵の件です。あなたは彼に毒を盛る計画を事前に立てていたのですか?」
アルバート王は立ち止まり、遠くを見つめた。「いいや、それは計画外だった。彼の処罰は既に決めていた。しかし…」
「しかし?」
「彼が最後の抵抗を試みることは予想していた。そして、その時のための備えはしていた」アルバート王は静かに言った。「王として時に厳しい選択をしなければならない。それは権力のためではなく、王国と民を守るためだ」
エドワードは黙って頷いた。
「さて、エルドニア王女への贈り物は決めたか?」アルバート王は話題を変えた。
「はい、王国に伝わる青い宝石のネックレスを…」
二人は庭園の奥へと歩いていった。アルバート王の顔には穏やかな微笑みが浮かんでいた。長い闘いの末に、王国は再び正しい道に戻ったのだ。
その夜、アルバート王は一人で窓辺に立ち、星空を見上げた。
「王妃よ、約束を守ったぞ」彼は小さくつぶやいた。「我らの王国は守られた」
窓からは、平和を取り戻した街の明かりが見えた。そこには新たな時代の夜明けが訪れようとしていた。