06
王都の大広場には、かつてないほどの人々が集まっていた。中央に設けられた高台には、アルバート王と両国の国王、そして多くの貴族たちが立っていた。その前には、鎖につながれたクレイン元公爵の姿があった。
「アーラント王国の民よ」
アルバート王の声は、年齢を感じさせないほど力強く響いた。
「一年前、この男クレイン・ラグナーは、不正な手段で王位を奪った。彼は私に毒を盛り、忠実な家臣たちを粛清し、王国の富を私物化した」
群衆からは怒りの声が上がった。
「今日、彼の罪を裁く。証拠はすべて揃っている」
アルバート王は手を上げ、側近たちが運んできた大きな箱を指し示した。その中には、クレイン王の犯罪を示す数々の文書が収められていた。
「しかし、私は彼の命を奪うつもりはない。死は彼にとって簡単な逃げ道だからだ」
アルバート王はクレインに向き直った。
「クレイン・ラグナー、お前の罪に対する罰として、お前の全財産は没収され、すべての爵位と特権は剥奪される。そして、お前はヘルマン島の監視塔に終身幽閉される」
ヘルマン島は王国最北端の孤島で、一年の大半が吹雪に覆われる過酷な環境だった。そこでの生活は死よりも辛いものになるだろう。
「お前の家族は罪を問わない。しかし、彼らもまたすべての特権を失い、普通の市民として生きることになる」
クレインは顔を上げた。その目には憎悪と恐怖が混在していた。
「老いぼれが…私がいなければ、この国はもっと強くなれたのに…!」
「強さとは何か、お前は理解していない」アルバート王は静かに言った。「真の強さは民の信頼と繁栄にある。それを忘れた統治者に未来はない」
その後、アルバート王は民衆に向かって演説を続けた。彼は王国再建の計画を語り、エルドニアとグラーストニアとの新たな同盟関係を発表した。三国間の協力によって、この地域にかつてない平和と繁栄がもたらされることになるだろう。
エルドニア王が一歩前に出た。「アルバート王よ、我が国の姫との婚約を再確認していただきたい」
「もちろんだ、友よ」アルバート王は微笑んだ。「しかし、私ではなく、我が甥のエドワードとの婚約として」
エルドニア王は満足げに頷いた。エドワードは先王の甥であり、アルバートの後継者として育てられていた若者だった。
宣言の後、クレインは護衛に囲まれて広場から連れ出された。彼の顔には絶望の色が濃かった。かつて彼が追い詰めたアルバート王と同じ運命を、今度は自分が辿ることになったのだ。
しかし、クレインの最後の抵抗はまだ終わっていなかった。広場を出る際、彼は突然、護衛の隙を突いて短剣を奪い取った。
「アルバート!お前だけは!」
クレインは王に向かって突進した。しかし、彼が数歩進んだところで、彼の体は突然よろめいた。顔から血の気が引き、そのまま地面に崩れ落ちた。
「何が…」
クレインは苦しそうに言った。彼の視界が徐々に暗くなっていった。
アルバート王が静かに彼に近づいた。「毒の効き目はどうだ、クレイン?」
「毒…?」
「お前が私に使ったものと同じだ。しかし、今回は解毒剤はない」
アルバート王の目は冷たかった。「これは計画したことではない。だが、お前が最後の抵抗を試みることは予想していた。剣や護衛ではなく、お前自身の手法でお前を倒すのが最も相応しいと思ってな」
クレインの目に恐怖の色が広がった。「いつ…?」
「朝食の水だ。お前は毎朝、同じ飲み物を飲む習慣がある。それはお前の側近から聞いていた。リチャード修道士はお前の料理人と親しく、今朝の水に毒を混ぜる機会を得たのだ。私の幽閉も、結果的にはお前に近づく完璧な隠れ蓑となった」
クレインは苦しみながらも笑った。「結局…お前も…私と同じだ…」
「違う」アルバート王は静かに言った。「お前は権力のために人を殺した。私は正義のために裁きを下したのだ」
クレインの目から光が消えていった。彼の最期の表情には、恐怖と共に悔恨の色も浮かんでいた。