05
「我々は包囲された」
宮廷会議室に集まった顧問たちの顔は青ざめていた。エルドニア軍とグラーストニア軍は着実に進軍を続け、わずか二週間で王都の近郊まで到達していた。
「降伏すべきでしょう、陛下。これ以上抵抗しても無駄です」
ある顧問が恐る恐る進言した。
「黙れ!」クレイン王は怒りに震えた。「降伏などするものか。最後の一兵まで戦う!」
しかし、その夜、さらに衝撃的なニュースが届いた。王国内の複数の都市で暴動が発生し、クレイン王に対する反乱が広がっているという報告だった。
「これは計画されたものだ!誰かが裏で糸を引いている!」
クレイン王は狂ったように叫んだ。彼の周りでは、かつての同盟者たちが次々と離反していった。
その頃、修道院では特別な訪問者が到着していた。
「アルバート陛下、お久しぶりです」
かつての騎士団長、ロドリックが粗末な修道士の服を脱ぎ捨て、跪いた。彼は死んだはずだったが、実際には秘密裏に生き延びていたのだ。
「よく来てくれた、ロドリック。すべては計画通りか?」
「はい、陛下。エルドニア王とグラーストニア王は、陛下からの密書を受け取り、完全に我々の味方です。彼らは表向きは侵攻していますが、実際には民間人への被害を最小限に抑えています」
アルバートは満足げに頷いた。「ヘンリーは?」
「地下組織を指揮しています。民衆の蜂起は彼の采配によるものです」
アルバートは立ち上がった。彼の姿勢はもはや老人のものではなく、かつての威厳ある王のそれだった。
「十年の計とまでは言わないが、私が王位についてから長年かけて築いた外交関係と、クレインの陰謀を察知してから練った策が実を結ぶ時だ。行こう、ロドリック。我らの王国を取り戻そう」
一方、王都では混乱が極まっていた。近衣の都市からの報告によれば、旧王アルバートが生きており、エルドニア軍とグラーストニア軍を指揮しているという噂が広まっていた。
「ばかばかしい!あの老人はとっくに力を失っている!」
クレイン王は激昂したが、その目には恐怖の色が濃かった。彼はアルバート王を完全に排除したはずだった。
しかし、その夜、宮殿に衝撃的な人物が現れた。
「久しぶりだな、クレイン。いや、今は『クレイン王』と呼ぶべきか」
アルバートが、エルドニアとグラーストニアの将軍たちを従え、宮殿の大広間に立っていた。彼の背後には多くの貴族たちの姿もあった。かつてクレイン王に従っていたはずの貴族たちだ。
「お、お前は…!どうして…!」
クレイン王は言葉を失った。彼の周りには、もはや忠実な部下はほとんど残っていなかった。
「お前は私を『老いぼれ』と侮っていたようだが、私は王として三十年以上統治してきた。その間に培った知恵と人脈を甘く見るべきではなかったな」
アルバートは静かに言った。その声には怒りよりも、哀れみの色が濃かった。
「お前に毒を盛られた時、私はすでにお前の陰謀を知っていた。だから解毒剤を常に身に着けていたのだ。あの『重篤な状態』も、お前を油断させるための芝居だった」
クレイン王は青ざめた顔で後ずさりした。「そんな…そんなはずがない…!」
「私の最後の家臣たちは忠実だった。彼らは隠れて活動を続け、お前の腐敗した統治の証拠を集めた。エルドニア王とグラーストニア王は、私の古くからの友人だ。彼らは真実を知ると、喜んで協力してくれた」
アルバートは一歩前に進んだ。
「そして何より、民衆はお前の圧政に苦しんでいた。彼らは正統な王の帰還を待ち望んでいたのだ」
クレイン王はついに崩れ落ちた。「降伏する…命だけは…」
「お前の命は取らん。しかし、お前がしたことの責任は取ってもらう」
アルバートの命令で、クレイン王は拘束された。