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02

翌日、クレイン公爵はアルバート王の執務室を訪れた。四十代半ばの堂々とした体格の男は、常に自信に満ちた笑みを浮かべていた。赤褐色の髪と鷹のような鋭い目つきは、その野心的な性格を物語っているようだった。


「陛下、ご召喚いただき光栄です」


クレイン公爵は深々と頭を下げたが、その目には敬意よりも打算の色が濃かった。


「クレイン、北部の状況について詳しく聞かせてもらおう」


アルバート王は穏やかな口調で切り出した。公爵の真意を探るためには、まずは相手に自由に語らせるのが得策だった。


「はい、陛下。北部国境では、グラーストニア王国の動きが不穏でございます。我が偵察隊の報告によれば、彼らは密かに軍備を増強しているとのこと。我々も早急に対応しなければ、北部諸都市の安全は保証できません」


クレイン公爵の言葉に、アルバート王は静かに頷いた。しかし、彼の心の中では、公爵の言葉の一つ一つを吟味していた。諜報部からの報告では、グラーストニア王国は内政問題で手一杯であり、アーラントに軍事的脅威を与える余裕などないはずだった。


「具体的な証拠はあるのか?」


「詳細は本日持参した報告書にまとめておりますが、グラーストニアの山岳地帯に新たな砦が築かれているとの目撃情報があります」


クレイン公爵は自信満々に答えた。


アルバート王は報告書を受け取ると、丁寧に目を通した。確かにそこには、グラーストニアの軍事活動についての詳細な情報が記されていた。しかし、王の鋭い目は、いくつかの矛盾点を見逃さなかった。


「興味深い報告だ。これについては慎重に検討しよう。しかし、そなたにはもう一つ尋ねたいことがある」


「なんなりと」


「先月、東部のブレイク伯爵領で起きた騒動について、そなたは何か知っているか?」


クレイン公爵の顔に一瞬、戸惑いの色が浮かんだが、すぐに平静を取り戻した。


「申し訳ありませんが、詳しくは存じ上げません」


「そうか。ブレイク伯爵の領民たちが暴動を起こし、税収が大幅に減少した。不思議なことに、その暴動を扇動した者たちの中に、そなたの家紋を帯びた者がいたという報告もあるのだが」


アルバート王の言葉に、クレイン公爵の表情が硬くなった。


「そのような事実はございません。きっと何者かが我が家の名を騙ったのでしょう」


「おそらくはな」


アルバート王は穏やかに微笑んだが、その目は鋭く公爵を見据えていた。


会談の後、クレイン公爵が退出すると、ヘンリー宰相が入室してきた。


「陛下、クレイン公爵のことはお気をつけください。我々の諜報によれば、彼は複数の貴族と密かに会合を重ねています」


「わかっている。だが、今は彼らの動きを見守ろう」


アルバート王は静かに言った。長年の統治経験から、敵の出方を見極めることの重要性を知っていたのだ。


その夜、アルバート王はヘンリー宰相と側近の騎士団長だけを呼び、密かな会議を開いた。


「奴らの動きは予想通りだ。今こそ我らの計画を実行する時だ」


王の言葉に、二人は厳しい表情で頷いた。


しかし、彼らが知らなかったのは、その会話が別の耳にも届いていたことだった。


翌朝、アルバート王が朝食を取ろうとしたとき、突然の胸の痛みに襲われた。王は床に崩れ落ち、侍医たちが慌てて駆けつけた。


「毒だ!陛下が毒を盛られた!」


城内は一気に混乱に陥った。アルバート王は混乱に紛れて、内ポケットから前もって用意していた解毒剤を飲んだが、わざと苦悶の表情を浮かべ続けた。侍医たちは王の演技に気づくことなく、事態は計画通りに進んでいった。


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