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01

アーラント王国の執務室の窓から差し込む夕陽が、アルバート王の疲れた顔を赤く染めていた。五十を過ぎたばかりの王は、その目に宿る鋭さは失っていなかったが、かつての若々しい輝きは徐々に衰えつつあった。


「陛下、本日の諸侯会議の議事録でございます」


ヘンリー宰相が恭しく書類を差し出す。アルバート王は軽く頷くと、それを受け取った。


アーラント王国は大陸西部に位置する大国であり、その繁栄は百年以上に渡って続いていた。豊かな農地と鉱山資源、そして四方を取り巻く同盟国との安定した外交関係。アルバート王の三十年にも及ぶ統治は、王国をさらなる発展へと導いてきた。


しかし、その安定も今や揺らぎつつあった。


「クレイン公爵の発言については注意深く検討すべきかと」


ヘンリー宰相の言葉に、アルバート王は眉をひそめた。クレイン公爵。王国北部の広大な領地を治める有力貴族であり、近年その野心的な言動がアルバート王の懸念材料となっていた。


「あやつは何を言っておったのだ?」


「北部国境の防衛強化を理由に、さらなる兵力増強と軍事予算の拡大を要求しております。しかし、我々の諜報によれば、北の国グラーストニアとの国境に緊張などありません」


「ふむ」


アルバート王は窓の外を見つめた。沈みゆく太陽が王城の影を長く伸ばし、それはまるで王国の上に忍び寄る不穏な空気を象徴しているかのようだった。


「明日、クレイン公爵をここに呼べ。直接話を聞こう」


「かしこまりました」


ヘンリー宰相が退室した後、アルバート王は書斎の隠し引き出しから一通の手紙を取り出した。それは三ヶ月前、亡き王妃の弟から届いたものだった。そこには不吉な警告が記されていた——クレイン公爵を筆頭とする複数の貴族たちが、陰謀を企てているという内容だった。


「老いたからといって、このアルバートを甘く見るのは愚かなことだ」


王は静かにつぶやくと、手紙を炎にくべた。


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