デモ
――反対!
――反対!
――断固として闘うぞ!
――反対!
「闘うぞー! おおおぉぉ! いてっ」
「なんだ? どうした?」
「ああいや、たまにあるだろ。心臓がズキッと痛む瞬間が」
「あー! あるある!」
「子供の時なんか、これ死ぬんじゃないかって思って、怖くなってさぁ」
「二分くらいで治まるやつな。はははは! なーんだ、周りの警官から攻撃されたのかと思ったよ」
「ははははは! 警察の連中にそんな根性はないよ」
「だな。待てが上手な犬っころだぁ。はははは!」
「断固はんたーい! いやぁ、ところでこれって何のデモだったかなぁ」
「おれたちは闘う! んー、わかんね。なんでもいいや、大声を出しながら車道を歩けるってのは気分がいいし」
「だな。今日はいい天気だしなぁ……」
「だなぁ……」
「はんたあああぁぁーい! あ、思い出した」
「はんたああああぁぁぁーい! なんだ?」
「ほら、あれだよあれ、えーっと」
「ははは、思い出してねえじゃねえか」
「うるせえな。そっちはどうなんだよ」
「あん? なんだっけな……」
「ははは! ダメダメじゃねえか」
「あんだよ、やんのかよ」
「ああ?」
「おお?」
「……はんたぁぁぁーい!」
「はんたーい!」
「まあ、どれも似たようなもんだしな」
「だな、最近は特にそうだ」
「ああ、今はただ歩くだけだ。昔は、もっと派手にやってたのになぁ……」
「そうだなぁ……ああ、いい天気だ」
「ははは、さっきもそんなこと言ってたな」
「そうだっけな。で、なんの」
「はんたぁぁぁい!」
「はんたぁぁぁい!」
「ふっー、疲れてきたな。で、さっき何か言おうとしてなかったか?」
「んー、なんだっけな」
「はははは、しかしあれだな。大声を出しながら車道を歩くのは気分がいいや」
「だな。今日はいい天気だしなぁ……」
「おー、本当にな……闘うぞー!」
「闘うぞー!」
「それで、おれらどこに向かってるんだ?」
「あー……警察署か、国会議事堂?」
「ひひひひ、そりゃいいなぁ。派手にやりてぇなぁ」
「ふふふふ、昔みたいになぁ」
「あの頃は」
「よかったなぁ……」
「それで、これは何のデモなんだ?」
「あー、なんだっけなぁ……」
「はんたぁぁぁぁい! ん、あれ?」
「はんたぁぁぁい! なんだ、休憩か?」
「いや、移動するみたいだ」
「おれ、後ろの席が良いなぁ……お先!」
「あ、ずるいぞ! 待て!」
「ははは!」
「はいはいはい、皆さん、ご苦労様でした。お車に乗ってくださいねぇ。押さない、押さない。慌てなくても置いていったりしませんからねぇ。はい、帰りますよぉ。あ、どうも」
「どうもどうも、いやー、今回もありがとうございました」
「いえいえ、こちらとしても、いい刺激になっていると思いますよぉ。皆さん、活き活きとした顔に戻られて、昔を思い出しているみたいです」
「ああ、デモが活発だった時代の人たちですもんねぇ」
「そうみたいなんですよねぇ。普段、歩くのが嫌いな利用者さんもね、デモに参加するのは文句を言わないんですよぉ。おかげで良い運動になってるみたいで、施設に戻っても元気が長続きするんですよ。まあ、元気過ぎるのも困りものですけどね、あははは!」
「はははは! 僕もお爺さんになったら、おたくみたいな老人ホームに入りたいなぁ」
「うふふふ、待ってますよっ。なーんて、あ、それで」
「ああ、はいはい。謝礼のほうはこちらに」
「ええ、うふふ、どうもどうも。また声をかけてくださいね。ああ、ちなみに、これって何のデモでしたっけ」
「ええっと、バイトなので僕も詳しくは……」
「あら、そうなの。まあ、どうでもいいわね。うふふ」
「はははっ、ですね! じゃ、どうもー」
「あはははは! はーい、またどうもー!」
「なあ……」
「……ん?」
「おれら、このバスでどこに連れて行かれるんだ」
「さあ……そう言えば、外で話してるあの女って、あれ、誰だっけな」
「んー……見張りじゃなかったっけ」
「あー、なんか嫌な感じがするなぁ、あの女」
「あー、確かに……じゃあ、あれは体制側か」
「ああ、そりゃ間違いないな」
「じゃあ、おれらはとうとう捕まっちまったのか」
「そうだな……」
「……なあ、これ見てみ」
「ん? おいおい、それって作ったのか?」
「おうよ、最近デモに参加することが多いからさぁ。こっそりとな」
「ひひひひ、いいね、いいね。ああ、昔を思い出すなぁ」
「だなぁ……。なあ」
「ん?」
「あんた……誰だっけ?」
「んー……さあ……。それよりもそれ、運転手とあの女が揃ったら投げつけてやれよ」
「いひひひひひ、それいいな。やっぱデモは派手にやらないとな」
「ああ、燃やしてやろう。いひひひひひ……」