一つのミスが終わりに繋がる。
「あ、やられた」
逸子がぽつりと呟き、継征がクソと悪態を吐く。
一度の被弾で死亡し、ゲームオーバーとなる。 問題はこのゲームオーバー画面だ。
操作できるメニューには「タイトルに戻る」しかない。
これが何を意味するか? そう、コンティニュー不可なのだ。
「この難易度でコンティニュー不可とかふざけんな!」
「コンティニューできると簡単にエンディングに行かれるとでも思ったんじゃない?」
プレイしながら逸子がスマートフォンで情報を集めたのだが、想像以上にこのゲームは曲者だった。
ステージは全部で30。 それをノーミスでクリアだけでも相当な難易度であるのだが、それ以上にトロフィー取得の条件が厄介だった。 正確にはコンプリートが、だ。
基本的に「~ステージまでクリア」、変わった所ではアイテムで強化された状態での撃破累計。
それで95%は埋まる。 残りの5%はなんなのか?
正確には二つ。 片方はタイムアタック――150分以内に最終ステージのクリア。
もう一つはアイテム取得なしでのクリアだ。
ただ、クリアするだけでも困難を極めるこのゲームを縛りを入れての突破。
想像するだけで気が遠くなる。 継征の操る自機――蠅がよく分からない弾を連射して敵を削るのだが、ボスを削る事に集中しすぎると他から刺される。
常に全方位からの攻撃にアンテナを張り巡らせなければならない。
背後からの奇襲に対応する為のツインスティックなのだが、とにかく視野を広く持たなければ直ぐに撃墜されて終わるのがこのゲームの恐ろしい所だ。
攻撃パターンを覚えて躱し、しつこくショットを撃ち込む。
雑魚を蹴散らし、ドロップしたアイテムで火力を強化。
その状態で大型の雑魚を仕留めると中ボスが出現。 雑魚を処理して火力を強化、中ボスを撃破。
そうするとボスが出現。 撃破すればそれでステージクリアとなる。
それを30回繰り返せばエンディングとなるのだが、これが非常に難しい。
序盤10ステージは割と何とかなる。
基本的に雑魚、中ボス一体、ボス一体で徐々にスピードがアップしていくだけだからだ。
制作側の意図としてはスピードと攻撃パターンに慣れろという事だろう。
11ステージから本番だ。 中ボス、ボスの数が増える。
単純に同じパターンのボスが増えるのではなく違った攻撃パターンのボスが同時に出現するのだ。
弾幕とそれを縫うようにレーザー。 この組み合わせに雑魚の攻撃が混ざるので反応が遅れると即死する。 今の所の最高到達点は15ステージ。
休憩を挟みつつ五時間ほどプレイしたがようやく半分だ。
「ああああああああ!! やってられねぇ!」
13ステージであっさりと撃墜。 思わず叫んでコントローラーを投げだす。
外はすっかり真っ暗だ。
「まぁ、初日だしこんな物じゃない?」
「ワンミスで最初からやり直しとか舐めてんのか!? 即座にタイトルに戻されるから徒労感が半端ないぞ!」
その後も粘りはしたが、集中力の限界らしく碌に進めなかった。
「だぁ! もうやってられねぇ!」
「何とか半分かぁ。 これクリアするだけでもしんどいね」
他人事だと思って軽く言いやがってと思ったが、何とか突破口を抉じ開けたいと考えていた。
可能であればタイムアタックは初回クリアで処理してしまいたい。
150分という時間制限は1ステージ五分以内でのクリアを想定しての数字だ。
この場合は序盤10ステージまでの間にある程度の時間を温存する形でのクリアが望ましい。
参考になればと動画を漁ってみたが、流石にこんなクソゲーを好き好んでプレイするもの好きはそう多くなく。 動画映えもしない事もあってプレイ動画はなくはなかったというレベルだった。
ざっと眺めたがパターンを覚えての突破という正攻法以外は存在しなさそうだ。
時間を見るともう遅い時間だった事もあって風呂と食事を済ませて再度挑戦。
休憩を挟んだお陰で集中は出来ており、ステージ10、15と順調に進む。
「っしゃぁ! ざまあみやがれこのクソったれがよぉ!」
ダース単位での敗北を重ねた事もあってパターンは完全に把握していた。
雑魚の挙動を意識しつつ中ボスを処理し、ボスの弱点にしつこく弾を撃ち込んで撃破。
そのまま、20まで突き進む。
このゲームの後半戦となるのだが、更に地獄だった。
雑魚の出現頻度が上がり、中ボスは複数。 ボスも複数なのだが、一つ潰すと壁から新しいボスが生えてくるのだ。 それもいきなり。
初見だと気づくのが難しいギミックだったが、動画で予習していたので何とか躱す事が出来た。
それでどうにか25ステージまで突破できたのだが、問題は26からの最後の5ステージだ。
高速で飛び回る雑魚を処理しつつ複数湧いてきた中ボスを撃破し、最後に出現した複数のボスを倒せばクリアなのだが、ボスは追加で湧いて来る事もあって一つ処理した所で気は抜けない。
集中、集中、全体を見過ぎると注意力が散漫になる。
重要なのは自機に飛んでくる攻撃の兆候を見逃さない事だ。
そうすれば勝てる。 絶対に勝てる。 継征は自分に言い聞かせるようにそう呟きながら血走った目でコントローラーを操作。
いける、勝てる、負けないと自己洗脳を繰り返す兄の姿に逸子は若干引いていたが、その甲斐あってか27、28とステージをクリアしていく。
そして29へ。 中ボスを処理し、三体同時に現れたボスを一体、二体と撃破し――
「よし、三体目――ああああああああああ!!!」
――たと同時に現れた四体目のレーザーに貫かれて自機がブチっと味気ない音を出して消える。
「クソ! クソ!! クソおおおおおおおおおお!!!」
継征は咆哮を上げながら床をのたうち回る。
「ちょ、お兄ちゃん。 もう夜だから静かに、ね?」
よしよしと逸子が背中をさすって落ち着かせる。
継征はややあって落ち着きを取り戻したのか静かにはなったが、気力を使い果たしたのか動かなくなった。 流石にこれは不味いと判断したのか逸子は「今日はもう寝よっか」促す。
「いやだ。 勝つまでやる」
「お兄ちゃん??」
「このクソゲーめ。 ぜってークリアしてやる。 そして二度とやらない」
継征は部屋を出ると冷蔵庫からいつの間にか買い込んでいたらしいエナジードリンクの缶を引っ張り出すとゴクゴクと喉を鳴らして飲み干し、再びコントローラーを握りしめた。




