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古桜庵にて待つ  作者: 挿頭 草
第一章:賽の河原
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伍組目の来訪者 弐

古桜庵に到着してすぐ、老夫婦は二階の客室へ運び日比谷に手当をしてもらった。

その間、銀次と子供達は一階の食堂で待機、木藤は新しいエリアの探索だ。



「眠ったわ。旦那さんの方もだいぶ疲れてたみたいで、奥さんの容態が安定してすぐにね。」



しばらくして、日比谷が一人で降りてきた。

どうやら手当はうまくいったらしく、満足げな表情を見せる日比谷に銀次もねぎらいの言葉を掛けた。



「そいつぁ良かった。助けに来てくれてありがとな。

あの爺さんの方もここまで来るのに、だいぶ歩いてたみたいだったし、どうやっても人手が足りない所だった。これでやっとこっちに取りかかれそうだぜ・・・・ん?」



そう頭を振りながら、()()の問題に取り掛かろうとする銀次。しかし、有無を言わさない力で肩を掴まれる。

その行動の意味が掴めず頭にハテナマークを浮かべていると、にこやかな笑顔のまま日比谷が言う。



「どこいくの?次はあんたの番よ。さあ、左足とほっぺた、右肘も切れてるから出しなさい。」




「ああ?俺はいいよ。どうせ大した傷じゃないんだし―――!!ぬわぁぁあああ!!」



遠慮する銀次を無理やり椅子に座らせると、痛みに呻く銀次を無視してあっという間に日比谷が必要な処置を進めていく。

実際に処置をする所を見たのは初めてだったが、カンゴフという職業は本当にすごい。

迷うこと無く次から次へと傷口に処置をしては、あっという間に傷口を縫っていくのだ。


銀次の時代にも刀傷に縫合を行う技術はあった。

けれど、日比谷の行う手当はもっと清潔に気を使っていて、合理的で、尚且つ無駄が無い。

そうやってテキパキ治療したあとは皮膚が動かないよう、しっかり布で覆い固定していた。



「なんていうか・・・改めてお前がすごい奴なんだって再認識しちまったぜ。」


「ふん、もっと褒めてくれてもいいのよ」



実のところ銀次は、日比谷に対してめんどくさがり屋で料理も下手で、木藤にすぐ突っかかってばかりで掃除が得意な事くらいしか長所が無いと思っていた。


それがこんなに大活躍する場面を見せられると、評価を改ざるを得ない。




しかし日比谷曰く、縫合は本来治療を専門的に行うイシャの専門らしく、カンゴフの管轄ではないらしい。

医者の家庭だからこそ知識があるものの、日比谷以外のカンゴフは基本できないし、資格の無いものはしてはいけないそうだ。


さらに未来には手術だけでなく、痛みを無くす薬品を扱う専門のイシャもいて、そいつがいれば縫合もそこまで痛くならないのにとぼやいていた。

治療の片手間にまるで雑談のようにそんな説明をする日比谷に、銀次は尊敬の念を抱かずにはいられなかった。



「よし、出来上がりね。まぁこれも自己満足になるかも知れないんだけど、傷丸出しで過ごされるより遥かにマシよ。」



「まぁ・・・そうだよな」



通常、この世界での時間経過で怪我は治らないと言われている。

それでも当初、満身創痍でやってきた銀次達を治療してくれたのは、オウカノヒメの力だ。

どういった魔法を使って治療していたのかは分からないが、オウカノヒメが消えた今、その力が残っているとは考えにくい。

そして銀次もそうだが、現世に戻るまで老婆の意識も傷も治るかどうかは分からない。



「爺さんにも、その事を伝えてやるべきだが・・・。」



楽観視出来ない状況に、銀次は気が重くなる。

ようやく助かったと明るい気持ちで床に入っただろうに、気の毒なことだ。



「現世に帰してやれるのが、一番なんだけどね・・・」



日比谷の言うことはもっともだが、その方法がどれも現実的ではない。



現世への移動方法として真っ先に頭に浮かんだのは、銀次の着物の袂に入った小さなプラスチックの塊だ。

それは以前、鬼の頭領イシザキが渡してきたものだ。


日比谷に聞いたところ、手のひらに収まる程のこの魔道具は、コンパクトというものだそうだ。未来の世で女が化粧品を入れる道具らしい。

中には小さな鏡が付いていて、イシザキは地獄の河原で開いて願うと現世へ帰れると言っていた。


当時は古桜庵が焼けてしまい、現世に帰るとかいう次元のメンタルではなくそのまま忘れてしまっていたが、のちに日比谷と出会ったイシザキの話を聞いてから、あの説明は嘘だろうと確信した。



十中八九、生者を鬼か何かに変える魔道具だろう。

だから老夫婦を現世へ返す方法としては真っ先に却下だ。


次に、現世へ移動する手段として思い浮かぶのが、日比谷がくぐったという扉だ。

イシザキに導かれるがまま歩いた先に、現世から地獄へ続く扉があったという話だった。



「日比谷が地獄に来たときの扉って、どんなやつだった?」



「うん・・・たくさん歩いたからあんまり覚えていないんだけど、確か山の上の廃墟の中にあって。そこに入るとすぐに地獄の草原に付いたわ。遠くにはアイツが住んでる城が見えて。

この辺の地獄と違って、背の低い草が見渡す限り広がってるような、不気味だけどきれいな場所だった。」





イシザキの拠点がどのへんにあるかは分からないが、怪我をした老婦人を連れて行くなら一番安全そうではある。

場所も分からない今、問題はどうやって連れて行くかだ。


どちらにせよ彼らを現世に返してやれるのは、まだまだ先になりそうだ。

そして、考えるべき問題はもう一つ、後ろに横たわっている。



「ここは、どこでしょうか。」



目を覚ました男の歳の頃は四十に差し掛かるくらいだろうか。

ずいぶん痩せこけており、髪は薄くなりつつある。横たわったままギョロッとした目を泳がせて懸命に周囲の様子を伺っていた。

身を起こそうとしたはずみに、木藤が掛けていた着物がずり落ちそうになって銀次はあわてて裾を押さえた。



「ここは俺達の屋敷だ。無事なようで何よりだ。あんた、どうやってここに来たか覚えてるか?」



異様に白い肌を晒したまま呆然とする男は、まだ思い出せないらしい。

確かに日比谷のときも最初はそうだった、と諦めて銀次は目の前の男に順を追って説明した。



男が死人であること。

この世界がどういう場所であるかということ。

そして――――銀次が倒した巨鳥に取り込まれていて、そこから開放された、ということ。


けれど男は腑に落ちない様子で横になったまま、じっと天井を見つめている。




「・・・・・。」



『このひよこ、思い出せない?』




黙ったままの男に向かって、ノリコが手の中のひよこを見せた。

紫色の小さなひよこは巨鳥を倒したときに現れたもので、恐らく鉄蟻の時と同じく無理やりこの男と融合させられたものだろう。


今はなんの攻撃性も見せず、ピヨピヨと鳴きながら温かい手の中でうつらうつらし始めていた。

その姿を見て、男はようやく何かを思い出したらしい。



「体が辛くて・・・明日も仕事なのに。眠れなくて、呼吸が苦しくて。

だから―――疲れを知らない丈夫な体が欲しいって、神に祈ったんです。そして、自由になりたいと。そしたら新しい体をくれるって、ヒヨコを差し出してきて・・・・あれは神様じゃなかったのか・・・?」



ポツリポツリと吐き出したのは、イシザキと交わした約束の内容だ。

これまでの暮らしがよっぽど辛かったのだろう、魂が抜け落ちたような顔貌を晒してただヒヨコを見つめている。


その姿に、銀次は居た堪れなくなった。

日比谷と同じで、辛い境遇に漬け込まれたのだ。

安易に同情するのも気に触ってしまうような気がして、掛ける言葉が見つからずただ男の言葉が紡がれるのを待った。




「毎日毎日残業ばかりで、給料も安くて・・・いつかこんな生活から抜け出したいって思ってたんです。

そう、異世界転生モノみたいに新しい世界で最強になって、つらい仕事も生活も忘れて、女の子にモテたいって――――あ。」



感情が抜け落ちたまま、漠然と視線を泳がせていた男の動きが止まる。

男の顔は、日比谷をまっすぐに凝視していた。

その視線を受けた当の日比谷も、困惑している。



「・・・どうしましたか?」



よそ行きの口調で男を案ずる日比谷は丁寧だ。

けれど男は答えない。

何か怒らせるようなトラウマでもあったのだろうか。

辺りに異様な沈黙が落ち、銀次が違和感に腰を上げようとした時。





「・・・もしかして、キミが物語のヒロイン?」




それまで色を失っていた瞳を瞬かせ、まるで夢見るように笑顔を浮かべた男の表情に、銀次も日比谷も、会話の外にいたノリコですらもーーーー何故かその場にいる全員の寒気が止まらなくなるのだった。


変な奴、登場。

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